ラジオの新たなかたち・私論 〔第21話〕

・・・・・・当ブログは、暫く時間をいただいたが、再開することにします。
・・・・・・これからの民放ラジオのあり方を考える上で、過去の歩んだ道に学ぶ
・・・・・・必要があると思い、振り返っています。参考になることが多くあり、
・・・・・・これから考えていく糧にしたいと思います。


**80年代の社会潮流に民放ラジオはどう取り組んだか**


個性を求める時代と民放ラジオの変化

 80年代の民放ラジオの特徴は、民放FMが全国各地に誕生し、民放AMとともに民放ラジオの聴取機会の拡大を促したことである。またラジオ業界では民放AM対民放FMの競合が鮮明になり、それぞれが「個性を求める」リスナー=消費者のニーズに応えるべく、番組開発に挑戦していった。民放FMは音楽を主軸にしながら様々な企画番組を投入、たとえば来日アーティストの徹底したライブ録音番組や世界のクラシック・オーケストラの生演奏シリーズなどを放送し、新たなラジオ・メディアの存在価値を構築していった。
 一方、民放AMは、これまでのラジオ経験を生かした番組づくり、FMにはできない番組づくりを考えの基本として、行動的な情報番組、スポーツ番組、特に報道部門には積極的に力を入れ、様々な番組を開発した。この内容はAMの番組開発のところで詳しく触れる。


〔1〕 民放FMの登場とその影響

 簡単に民放FMラジオの登場と普及に触れておこう。1969年NHK−FMが本放送を開始し、民放FMではFM愛知が同じ年、翌70年にはFM東京、FM大阪、FM福岡と4局が大都市に開局し先鞭を切った。それから12年、82年にFM愛媛を皮切りにそれ以降8年間に31局が開局。本格的な民放FM時代に入っていく。リスナーにとってラジオ番組の選択肢が広がり、より自分好みの番組を聴くことができるようになった。もちろん民放FMだけでなく、NHK−FMの全国開局も進み、より多くのリスナーに選択の機会が与えていった。

 現在のラジオ界では、一般に聴取者をリスナーというが、ネットを利用するユーザーとも深いつながりがある。リスナー=ユーザーと捉えることが多い。80年代のラジオはリスナーを消費者であると捉え、リスナー=消費者と捉える傾向が強かった。消費者とは高度経済成長で生産された商品を購買し消費する人々、すなわち消費社会の担い手たちである。これは一般の人々の1つの側面からみた表現だが、高度成長時代から低成長時代にかけてよく使われていた呼び方である。消費者の動向はスポンサーである様々な企業に影響力をもたらすため、民放ラジオ業界にとってスポンサーと同様に大きな存在であった。その動向を把握するものとして「聴取率調査」があり、ラジオ局では殊のほかその動向を気遣った。

 民放ラジオにおける「聴取率調査」は、常時全国に実施される統一調査はない。東京圏、関西圏、県別などそれぞれの民放ラジオが自主的に行っているため、民放ラジオの聴取状況を全国で判断する資料は少ない。JRN共同調査のように、ネットワーク局が共同で調査している資料は存在する。NHKが全国で行う調査もある。民放ラジオの動向を把握する時には、影響力を持つ東京や大阪のラジオ局の調査が参考にされることが多い。ここでも当時の東京を中心とした首都圏での調査を参考にして概要を伝えたい。調査を実施する会社はビデオリサーチ社という専門会社が多い。テレビとラジオの調査を実施している会社で、80年代の民放ラジオは大方この調査会社で行っている。

 民放ラジオがリスナーにどの程度聴かれているかを判断する目安は、SIU(セットインユース)を参考にする。これは全日(月〜日)12才〜59才のリスナーがラジオと接触している数値である(90年代の調査は69才まで広げている)。ここで取り上げる数字は首都圏AM4局(TBS.QR.LF.RF)が実施している共同調査を参考にする。当時この調査には民放FM局は参加していない。首都圏ラジオ全体を把握するには各ラジオ局の調整がつき、共同で調査するようになった90年代以降である。

 さて、80年代のSIUであるが、上記共同調査によると81年9.8%を境に漸減傾向がつづき、84年から89年までは平均7.0%台に減少している。時間帯別の平均値では、朝(5時〜12時)が9.0%台、昼(12時〜19時)が9.3%台を維持している。ここで大切なのは、「心の豊かさ」「個性ある生活スタイル」を求める80年代の人々がラジオを聴取する場合、自分の好みに合ったメディア選択、プログラム選択の影響を受けるので、ラジオ全体の聴取傾向をみるほかは年齢別、性別、職業別などより細分化した視点が必要であると思われる。しかし、より正確さを追求するには、AMとFMの共同調査を待つしかなかった。

 阪神地区の調査は、民放AM4局が共同調査を行っているが、首都圏と同じスペックでないため比較することは難しい。近いものとして1日1人当たりの聴取時間がある。それによると1日平均100分〜110分の聴取が80年代も維持されているようだ。しかし世代別ではヤング層が低減する傾向がみられる。恐らくFMの影響が生まれているのだろう。

 なお、上記首都圏の資料は民放AM4局が共同で年4回実施していたデータに基づいている。FM局はそれぞれ独自の調査を実施していたため、首都圏の民放ラジオ全局を表す数値とは言えないが、80年代の民放ラジオの傾向をみるには参考となるだろう。  (つづく)






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