ラジオの新たなかたち・私論 〔第28話〕

       >>このブログは「民放ラジオの行方」にスポットを当てています。
       現在は、民放ラジオ60年の姿と社会の歩みを振り返っています。
       この項は“失われた20年”社会の潮流について書いています。<<



ミレニアムを挟んで我々が歩んだ時代の社会潮流を振り返る 《 Part2 》

“失われた10年”というと、主に経済の停滞を指しているが、“失われた20年”というと、経済ばかりでなく、政治分野も社会の分野もすべてを含むような印象を持つ。実際、政治では例外を除き、国を代表する首相が1年足らずで交代するありさまで、政策は先延ばしされることが多かった。社会面は少子高齢化を始め、格差社会の広がりや地方産業、農業の衰退、学校、家庭の崩壊など、かつての安定社会が音を立てて崩れる時代でもあった。


〈 政治分野:自民党政治の行き詰った時代 〉

 この20年間、政治分野での最も大きな出来事は、実質的に統治していた自民党政権が続かなくなったこと、言いかえると「55年体制」が崩壊したことであろう。1993年自さ社連立政権の誕生で、38年にもおよぶ支配体制が崩れ、これ以降政治のあり方に大きな変化が生まれる。変化をもたらした原因は、80年代深く静かに進行していた社会構造の変化であり、それが90年代に表出したものである。たとえばグローバル化による多くの企業の海外進出と産業の空洞化であり、利益優先の企業活動、個人化を尊重する国民意識の深化、コミュニティ社会の溶解などを背景に、企業献金による腐敗政治の横行は自民党から有権者の信頼を大きく失っていった。

 自民党政治凋落の直接的な原因は、自民党型分配システム(集票システム)が行き詰まったことによる。地方の政治家は企業・商工会・町内会といった中間団体に支えられていた。それは地域・業界単位で行われる保護や公共事業によって繋がる仕組み、すなわち利益配分によって結びつきを維持してきた。しかし、地域還元として公共事業や新幹線を整備すればするほど、地域共同体の弱まりと共に、ストロー効果で人口流出が進む。ストロー効果とは高速道路や新幹線の建設により、人々が大都市へ吸い上げられること。地元への利便性が逆効果を生む結果となっていった。こうして政治家個人の選挙区への影響力を低下させていったことが直接の低落原因である。(小熊英二編著「平成史」参照)。

 55年体制の終焉は自民党政治の衰退であるが、政治全体の混乱ぶりは次の数字が物語っている。昭和後期(戦後)の東久邇宮稔彦総理から竹下登総理までの43年半の総理数と竹下総理から安倍晋三総理まで25年間の数が同じという。(竹下内閣は、昭和62年11月〜平成元年6月の期間、昭和と平成を繋ぐと内閣だった。)小泉純一郎総理の5年半という時機を除き、およそ20年で17人の総理が変わっていることになる。平均すると1年ちょっとだ。失われた20年の自民党政治がいかに不毛だったかが理解できる。

 一方、政治の統治面で特徴的なキーワードをあげておきたい。1つは政策決定に影響を及ぼす政治的思想=新自由主義と、もう1つはグローバリゼーションである。新自由主義の考え方は、1980年代の中曽根内閣と20年後の小泉内閣が積極的に取り組み、経済・社会に大きな影響力を与えた。新自由主義を一言でいうと、「民間でできることは民間で」が小泉総理のキャッチフレーズであったが、政府の機関を民間に移し、「小さな政府」にすることが望ましいという考え方だ。

 具体的にいえば、新自由主義では市場が自由に活動できるよう、これまでの規制を緩和し、公的機関を民営化し、公共事業の削減など、国や政府が関わってきた事業を民間に移し、競争原理のもとに運用することこそ市場が活性化し、経済成長に結びつくというものだ。新自由主義は70年代から80年代にかけてアメリカはレーガン大統領、イギリスはサッチャー首相によって取り入れられた政治思想で、日本ではほぼ同じ時期に誕生した中曽根政権の政策に取り入れられていく。そして実施されたのが、「国鉄」「日本電信電話」「専売公社」などの民営化だった。同じように20年後の小泉内閣が行った「郵政民営化」はじめさまざまな民営化である。

 「郵政民営化」を衆議院参議院を同時解散してまでも実施した政策は成功したのだろうか。論議は現在も続いているが、小泉内閣は「郵政民営化」をはじめ、新自由主義の政策を次々に打ち出した。道路関係四公団の民営化、公共サービスの民営化、政府職員の非公務員化(国家公務員数を半減させる)など、また「中央から地方へ」として国の義務的経費を地方へ移譲する“三位一体の改革”などもその1つ。いずれも「官から民へ」「中央から地方へ」を柱とした構造改革の実施であった。

 失われた20年の政治的諸要素のなかで、今日まで大きな影響を及ぼしている政策が新自由主義という経済政治思想によるさまざまな政策であるところに触れたかった。上述したように、失われた20年のエレメントのもう一つに「グローバリゼーション」がある。次回からこの分野について触れてみたい。(つづく)






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