ラジオの新たなかたち・私論 〔第27話〕

**“失われた20年”といわれる時代と民放ラジオの生き方**



ミレニアムを挟んで我々が歩んだ時代の社会潮流を振り返る 《 Part1 》

 未来を考えるには歴史を振り返ることが最も大事であるが、民放ラジオの明日を考えるために60年の歴史を振り返っている。今回から1990年頃より直近の2010年頃まで、よく使われる“失われた20年”を取り上げていく。政治、経済、社会が停滞し、社会全体に閉塞感が漂う時期である。民放ラジオの営業収益も、90年代は横ばい状態を維持したものの2000年代に入ると年毎に下降線を辿っていく。その間、現代史にどんな動きがあったかをしっかり見詰めながら、明日のラジオを考える糧としていきたいと思う。


〈 1990年代以降の社会とそれ以前の社会とはどこに違いがあるのか 〉

 1989年が平成元年であるから、この年生まれの人は2014年で24歳、2015年では25歳、四半世紀過ぎることになる。平成育ちの若者がすでに社会で活躍する時代となった。若者の両親は50歳前後で今や社会の中核だ。両親の親たちはすでに高齢化社会に突入し、大きな戸惑いのなかにいる。一方この時代を生きてきた同世代には、身の回りの人々や接触した社会状況、そして生活経験が思い出とともにしっかりと存在している。それだけにこの20数年間の出来事は世相とともに血となり肉となっている。

 平成生まれの人でも、幼少の頃ではあっても、映画やテレビ、ラジオといった視聴覚で確認できる記録が数多く存在するので、関心を持つならば生きてきた時代の感覚を肌で知ることができるだろう。しかし、歴史としての存在や位置づけ、意義といったものはこれからの優れた研究を待たねばならない。ここでは90年(平成2年)からの20年間を現在の研究者や知識人の考え方に触れながら、歴史的潮流の一端を眺めてみよう。これまで経験したことのない歴史的転換期に我々が立ち合った経験を認識し、その時代に生み出された課題というものを見詰める姿勢を持ちたいものである。

 慶応義塾大学の小熊英教授による編著書に「平成史」がある。このなかで戦後の時期区分を55年前後、73年前後、91年前後を重要な時代とし、「平成」はその3つの区切り以降に相当するとしている。そして、90年前後の前は「工業化社会」、後を「ポスト工業化社会」と区分している。前者の“物づくり日本”といわれた工業化社会は、65年(昭和40年)からで、それは製造業の就業者が農林水産業のそれを追い抜いた時、分かり易くいえば、「東京オリンピック」から「バブル崩壊」までおよそ30年の時代ということになる。政治の流れや人口動態からも符号するところが多いという。

 これに対して、90年代以降のポスト工業化社会は、サービス業就業者が製造業のそれに追い抜く93年(平成5年)からで、「バブルの崩壊」というエポックメイキングな出来事を境に、経済成長は横這いから減少に、そして10年後には幾分持ち直すといっても不安定な状況が続き、長期不況、高い失業率、蔓延する閉塞感が社会を漂い、失われた10年が20年になり、それを越えようとしている現在までの期間だ。ミレニアムを挟んだこの時代は、政治、経済、社会とも工業化社会と大きく異なった時代を形成していく。

 東京大学吉見俊哉教授は「ポスト戦後社会」(岩波新書/2009年)では、90年代以降をポスト戦後社会とし、それ以前と比較して大きな変化をこう記している。これまでの高度経済成長の結果、社会全体のパイが大きくなり、幅広い中流意識が形成されていた。しかし90年代以降は予想もつかなかったほど収入や資産、将来性の格差が目に見える社会に変化していった。「このような社会構造の根本にかかわる変化をもたらした最大のモメントは、いうまでもなくグローバリゼーションである・・・戦後日本社会を突き動かしてきた最大のモメントは『高度経済成長』」であったとするならば、『ポスト戦後社会』とは、グローバリゼーションの日本的な発現形態であると言っても過言ではない」といっている。

 90年代以降、世界的に急速に進行したグローバリゼーションが、日本の国勢を左右するほど国民の生活に深く影響する時代を創り上げた。社会全体を構成しているシステムや国民の意識に構造変化をもたらし、工業化社会に創造された「安定社会」を根底から崩されて、「不安定社会」を生み出している。その不安定要因をさまざまな対策で取り去ろうとしているが、結果的に日本の行く末を左右する国家的問題や課題を抱えて今日に至っている。

 日経新聞は、2010年8月よりシリーズとして掲載した記事「日本この20年」を書籍化し、長期停滞から何を学ぶか、というテーマで多くの提言を纏めている。そのエピロークはこう結ばれている。日本は問題を先送りしてきたが、戦後蓄えてきた「遺産」でどうにか豊かさを維持してきた。しかし「失われた30年」にはおそらく耐えられないだろう。そうならないよう、「この20年」が与えてくれた教訓をくみとって、意思の力で自分を変えていかなければならない。それが政治家だけではなく、今の世代の大人たちすべてに課せられた使命のように思える、と記している。

 この20年間で生まれた社会全般の課題は、我々日本のこれからの姿に大きくかかわっている。それほど重要課題が多く残されている。次回からはさまざまな分野を俯瞰しながら、時代の軌跡と結果的に生まれた重要な課題を点描していくことにする。(つづく)






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