ラジオの新たなかたち・私論 〔第30話〕

暫く間が空きましたが再開します。
このブログは「民放ラジオの行方」にスポットを当てて書いています。
この項は、民放ラジオ1990年代〜2000年代を振り返るため、
“失われた20年”の社会潮流についてスポットを当てています。


ミレニアムを挟んだ時代の社会潮流を振り返る 《 Part4 》その1

 我々が歩んできた“失われた20年”を社会・文化の面から振り返ると、大きな社会現象や自然災害に見舞われた時代で、短文にまとめるにはあまりある。ここではその一端を紹介しながら、時代の転換期を経験する事象に触れておく程度にしたい。この20年間は明暗を分ける事象が噴出するとともに、流れの早い時代でもあった。大河に例えると、川幅が狭く、ゴツゴツした岩礁にぶつかりながら流れる怒涛のような時代だったといえるかもしれない。


■ 多分野を転換させた“失われた20年”

90年代前後に起こった、昭和天皇崩御ベルリンの壁崩壊と冷戦終了、バブル崩壊など、時代を画する出来事が起こり、どんな時代が巡りくるのか不安を抱く最中、阪神淡路大震災やオーム信者によるサリン事件が発生し日本中を震撼とさせる。一方、皇太子と雅子さまのご成婚や大江健三郎ノーベル文学賞受賞は、国民に暖かな思いと誇りを抱かせたことではあるが、政治経済がバブルの不良債権に悩まされ、明日への希望という思いが吹き飛んでしまったのが90年代=“失われた10年”であった。

2000年代になると、2回にわたる新潟県中越地震中越沖地震に見舞われる一方、JR福知山脱線事故秋葉原無差別殺傷事件などこちらも戦慄が走る事件が起こっている。明るい出来事は白川英樹教授、小柴昌俊教授などのノーベル賞受賞や「サッカー日韓W杯共同開催」「北朝鮮拉致被害者5人帰国」は鮮明な記憶として残っている。

この20年間は、70年代80年代と比べてさまざまな点で相反する傾向が生まれてきと思える。あたかも自然の見える景観からトンネルに入り視界が途切れる。また開けるといった感覚である。我々の身近な生活から数字をあげてみると、たとえば国民の全世帯平均所得金額推移では94年を境に15年間減少傾向が続く。自殺率では90年代が平均2.2万人に対してゼロ年代は平均3.2万人と一気に1万人増え、現在もその数字は続いている。

正規雇用者の対比をみると、90年代平均は23%であったのがセロ年代では31.5%となり8.5%も増加する。全雇用者の3割以上が非正規雇用者になっている計算だ。これはその後も増加を続け、最近の14年では37.9%にも高まっている。日本の全労働者の4割近くが非正規雇用者と聴くと、安定した社会などとは程遠い現状が現れている。安倍内閣は現在でもこの傾向をさらに高めようとしている。(注:上記所数字は厚生労働省、警視庁、総務省などの資料による。)

70年代80年代の家庭では、一家の主が正規雇用で働き、母や姉(兄)が家計のサポートとして非正規雇用=アルバイトやパートで働いていた。生計を成り立たせる柱がしっかりいた。それに比べて、90年そしてゼロ年代は働かないと維持できない生活環境である。ここにも大きな違いが現れており、石川啄木の詩「一握の砂」を思い起こさせるほど、貧困層が増加の一途を辿っている。こうした社会状況をみるにつけ、“閉塞感”という時代の雰囲気が漂ってこない方が不思議なぐらいである。

社会的雰囲気としては、庶民の生活感も少しずつ行き詰り、何かが蔓延していった背景には、少子高齢化の拡大や格差社会がもたらす、努力しても報われない状況が次第に社会を覆いはじめていた。時代全体を包み込む空気として“社会の閉塞感”というキーワードは上述した生活感から生み出されるばかりではなく、むしろこちらの方が本筋といえる社会の変容がある。その大きな特色が次に触れる中流意識の崩壊と格差社会の拡大だ。


■“閉塞感”の背景は中流意識の崩壊と格差社会の広がりが大きい!

高度経済成長時期と安定性成長時期の20年を経験した日本の社会は、一億総中流=国民の大方が中流意識を抱いていたといわれる。これは内閣府の「国民生活に関する世論調査」に現れた傾向で、50年代後半と60年代後半の同調査による。前者が7割、後者が9割という数字に基づいている。もちろんこのほかにも国民の中流意識を表すデータはさまざまあるが、このころ、安定成長が継続していた60年後半から70年代は、平和で安定した社会や家庭生活について「努力すれば何とかなる」という“将来に対する期待”が多くの人々に息づいていたといえよう。

 それに比べて、バブル崩壊以降(90年代)は「努力しても仕方がない社会」「努力をする気になれない社会」という雰囲気が漂っていた。この言葉はバブル以降混乱する社会を象徴しているが、1年毎に変わる政治、政策の棚上げ、不良債権を抱えたまま身動き取れない経済状況、そのなかで阪神淡路大震災、オーム信者によるサリン事件など、国民を取り巻く社会情勢は人々に閉塞感を抱かせる出来事ばかりの90年代だったといえる。       (つづく)







・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜