〔第14話〕ラジオの新たなかたち・私論

** 現在の原型を創った70年代の民放ラジオ〈Part 4〉**

〔数字で見る深夜放送の威力〕
 70年代の民放ラジオの大きな特色の1つに「深夜放送」であったことに異論はないだろう。若者に絶大な影響力を築いた様子を数字でみてみよう。72年(昭47年)文化放送(日本リサーチセンター調査)によると、深夜放送を「よく聞く」「ときどき聞く」が12〜14歳は52.7%、15〜17歳は78.8%、18〜21歳」は71.3%という圧倒的な数字を示している。首都圏の調査であるが、「深夜放送」が若者にとってどんな存在であったかがよくわかる。

 また全国的にみても深夜に起きている若者が多かった。少々遡るが、NHKの「国民生活時間調査」(1965年)によると、高校生が〈午前零時台〉に起きている人が9.9%に〈午前一時台〉が5.4%、〈午前2時台〉が3.5%、〈午前3時台〉でも2.9%となっている。全国調査なので首都圏より低いように感じられるが、高校生という若者にとっての深夜時間は大きな意味を持っていた。恐らく「深夜放送」聴取という位置づけはかなり高かったように思われる。この世代前後(団塊の世代前後)が現在のラジオの中心的リスナーになっていると思うと、当時の「深夜放送」の役割がいかに大きかったかがわかる。

デイタイムの番組開発とパーソナリティ〕
 民放ラジオは60年代後半から70年代前半にかけて、「生ワイド番組」が主流となる。テレビの影響下にあって苦難の時期を経験し、その打開策として打ち出されたパーソナリティ中心主義、それは直接「生ワイド番組」へと繋がっていった。いい方を変えるとラジオの新しい領域を開拓したともいえる。この開拓方法は、一足早くテレビ影響下の苦しい時代を経験し、その打開策をパーソナリティの威力によって乗り切ったアメリカを参考にしたもので、日本のラジオに適したパーソナリティ像を創り上げたのである。

 朝、昼、夜、深夜と24時間パーソナリティの名前を冠としたワイド番組が流れた。番組の比重が、企画中心からパーソナリティ中心へと変わったのである。その代表的な例をあげてみよう。「こんにちワ近石真介です」(東京放送)、「山谷親平のお早うニッポン」(ニッポン放送)、「芥川隆行のオハヨー!日本列島」(文化放送)「おはようパーソナリティ・中村鋭一です」(朝日放送)、「阿部牧郎とその一味」(大阪放送)、「おはよう小城まさひろです」(九州朝日放送)などである。こうしたパーソナリティ中心の番組づくりは全国のラジオ局へ広がっていったのは当然であったろう。

 名前を冠としたラジオ番組は、現在では当たり前のように映るが、この時代に個人がラジオを聴くようになったとこと、個人聴取こそがラジオのあり方を変え、パーソナリティ中心の番組を登場させ主流にしていったが、パーソナリティとリスナーのコミュニケーションがマスであるけれどもパーソナルに繋がるというラジオならではのコミュニケーション形態=マス・パーソナルコミュニケーションが出来上がっていく聴取形態を生み出し、ラジオ番組を大きく変えていったといえる。

〔個人の聴取形態の多様化の進行〕

 この背景にはもう一つの物理的環境があった。60年代初頭にラジオ受信機が真空管式からトランジスタ式に代わり、携帯化が可能となり、いつでもどこでも聴取可能な時代になったという背景がある。50年代の半ばに登場したトランジスタラジオは60年代に入り急速な普及をみる。真空管式ラジオ受信機(据え置き型ラジオ)の生産を追い越したトランジスタラジオは60年には生産1000万台を超え、その後商業用自動車から自家用車にも搭載されるようになる。

 70年代に入り、ラジオの小型化やラジカセ(ラジオカセットレコーダー)など製品が各社から発売され、急速に普及していく。60年代はオープンテープのレコーダーが中心だったが、70年代に入りカセットレコーダーが急速に普及する。民放FMラジオの開局とともに、ラジオ付カセットレコーダーはエアチェックブームを引き起こしたことは、1つの社会現象となったほどである。

 個人聴取は、ラジオ受信機の小型化でいつでもどこでも聴ける環境やラジカセの普及により録音して聴くという習慣が広がっていく。ラジオのながら聴取拡大の一方、録音して聴くという傾聴型聴取形態も復活し、自己聴取の多様化が進んでいった。70年代ラジオの黄金時代はこうした聴取形態が広く深く浸透していった。(つづく)



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