【第125話】デジタルラジオのかたち・私論 (その45)

 前回はラジオを衰退させている社会的要因を次の6つを上げた。要因〈1〉デジタル情報基盤の確立とアナログからデジタルへの変革、要因〈2〉ソーシャルメディアの普及がマスメディアの情報流通を変える、は前回を参照していただきたい。今回から要因〈3〉から説明していこう。


要因〈3〉適用性を欠く既存マスメディアの情報流通システム

 ラジオにとって重要なポイントであるが、既存の4大マスメディアは情報流通システムが「垂直統合型」である。情報というコンテンツが送り手から受け手に伝わるまですべてが独自のシステムになっている。たとえばテレビ・ラジオでいえば、番組(コンテンツ)が放送施設→電波→ラジオ受信機で受け取り視聴者に届く。新聞・雑誌でいえば、記事(コンテンツ)は新聞紙や雑誌に記載されて新聞販売店・書店から購読者に届く。他の流通システムでは代用ができない。この流通システムをジャーナリスト佐々木俊尚は〈コンテンツ〉〈コンテナ〉〈コンベア〉の3層で説明する。番組や記事のコンテンツはコンテナという放送施設や新聞紙・雑誌に組み込まれ送られる。コンベアという電波・受信機や新聞販売店によって送られ利用者に届く。この垂直統合型流通システムがインターネットの登場により機能しにくくなりつつある。それがテレビ・ラジオの視聴減少や新聞・雑誌の購読者減少を招いている。インターネットの登場により情報の流通が垂直統合型から水平分散型に移行しつつあるのだ。ここにマスメディアの危機を招いている構造的な問題がある。


要因〈4〉生活者の情報収集とコミュニケーション回路に変化

 情報(コンテンツ)はアナログからデジタルへ変わることによって、コミュニケーションの形が変化している。情報は送り手→メディア(媒体)→受け手→効果影響という流れで伝わっていく。この伝わり方が大きく3つのタイプに変化してきているといわれる。日経メディアラボ所長の坪田知己は、その変化を「一対多」の形態、「多対多」の形態、「多対一」の形態に分けて整理する。「一対多」とは1つのメディアが多くの人に伝達する仕組み。これは従来型マスメディアの情報伝達タイプだ。「多対多」は多くの人が発信し多くの人が受信する形態で、現在パソコン上やスマートフォンなどによるフェイスブックツイッターなどのSNS、ブログ、検索システムなどソーシャルメディアによるタイプである。「一対多」の4大マスメディアはこの「多対多」の情報流通に飲み込まれる形成である。そしてこれから迎える形態が「多対1」である。ユビキス・コンピューティング時代の情報伝達だ。生活環境のあらゆる場所に情報通信環境が埋め込まれ、利用者がそれを意識せずに利用できる技術、いってみればコンピューターと個人かが会話し能動的に行動する環境の情報コミュニケーションである。近未来に到来が予測されている情報環境だ。


要因〈5〉ラジオはマスメディアからミドルメディアへ転換

 情報流通の変化、コミュニケーションの変容といった環境が日に日に進展している現状をのなかで、ラジオが聴かれなくなった原因の1つに、パソコンやスマホの登場によりラジオから情報を得る必要がなくなってきたことや、ラジオの送り手と受け手のコミュニケーションがネット上のソーシャルメディアに取って代わったことなどがあげられる。その結果、ラジオ受信機が日常生活から消えようとしていることが最もラジオに影響を与えていることで、ラジオ接触率の低下に繋がり、営業収益の減少に結び付いている。現在のラジオはこれまでのマスメディアとしてのポジションに代わって、新たな影響力を持つもう一つのメディアへ衣替えし、マーケットを構築にせねばならない時期に至っている。

 メディアの世界を受け手の数から大まかに分類してみると、「マスメディア」「ミドルメディア」「パーソナルメディア」の3つに分けられるであろうか。マスメディアは数千万人〜数百万人、ミドルメディアは数十万人〜数万人、パーソナルメディアは数千人〜数百人と仮にしておこう。ラジオの場合NHKは全国放送であるからマスメディアと思うが、民放県域ラジオは地域により異なるが、番組ターゲット層からみるとミドルメディアの分類に入るだろうか、そしてパーソナルメディアはパソコンやスマホソーシャルメディアを活用するユーザーたちだ。facebookやツイッターでは数百人、数千人の仲間を持つユーザーは非常に多い。なかには数万〜数十万の人もいる。そういう人は個人でミドルメディアを持つといっていいだろう。これからの民放ラジオは放送とネットを融合させて、かつてのマスターゲットより狭いが、よりコミュニケーション内容の深い、繋がりの強い「ミドルメディア」を構築することが目標となってくるだろう。ラジオのミドルメディアとしての生き方は別途詳しく触れたいと思う。


要因〈6〉企業広告のマーケッティングに著しい変化が生している事実

 民放ラジオの営業収益が全盛期の2分の1以下に落ち込んでいる現在、今さらその原因を探るには時間が経ち過ぎている。すでに多くの人が指摘している。そこで、低迷している状況をラジオ・マーケティングのサイドから少々触れるだけにしたい。いくつかの要因を上げるとすれば、ラジオメディアは、情報流通システムが大きな変化したように、メディアを活用する企業の広告宣伝に大きな変革が起こった。その最も大きな流れは、生活者(消費者)の広告に対する接触や情報収集の仕方が、マスメディアからインターネットへ移っていったこと、その結果企業は、広告マーケティングを既存のマスメディアからインターネット中心に移していった。企業のマーケティング活動が既存のマスメディアから相手の見えるメディアへ、特定できるインターネット広告へ活路を見出していったといっていいであろう。

 企業広告はマス・ターゲッティングからセグメント・ターゲッティングへ主力を変え、消費者像をより明確に捉えるべく展開しる一方、消費者の求める商品情報はできるだけ詳しく提供し、消費者自らのアクセスを重要視するように変わってきた。その結果、大掴みを主流とする4大マスメディア、特にラジオメディアは広告選択のステージから徐々に外されていった。インターネットが普及するや企業の多くがネット広告の研究を進め、広告会社とともに自社の商品の購買者を的確に捉える手法を編み出した。4大マスメディアは、このセグメント・マーケティングに不得意なところであり、時とともに広告費がネット広告へと流れて行った。あるマーケッティング専門家は、インターネットメディアについて「セグメントさせたターゲット層に対して、情緒的・感覚的なブランドコミュニケーションを行うことが可能なメディアが、初めて登場した」と表現している。マスメディアのなかでもラジオはターゲッティング・メディアではあるが、ターゲットが明確に把握できないところに不利さがある。

 しかし、民放ラジオはこうしたマーケッティングの理由だけではないメディアの構造的要因が積み重なっているところに大きな問題があり、それを乗り切るラジオ経営者の事業手腕が問われているといっていい。ラジオを代替するメディアがない時代ならともかく、代替可能なメディアが到来した以上、衰退を余儀なくされることは自明の理であろう。ラジオ経営者はこれまでのラジオ機能を基本に置くのではなく、新たなラジオ機能を開発し、社会的役割を創造し、広告のみに頼らない経営資源を生み出していかねば民放ラジオの再生はないのではなかろうか。(了)


参考資料
・ 「2011年新聞・テレビ消滅」佐々木俊尚著 文春新書
・ 「2030年メディアのかたち」坪内知己著 講談社
・ 「グーグルに勝つ広告モデル」岡本一郎著 光文社新書




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