【第124話】デジタルラジオのかたち・私論 (その44)

 当ブログは、これからのラジオの在り方を巡ってさまざまな角度からラジオというメディアに触れてきた。タイトル「デジタルラジオのかたち」はその象徴で、「私論」はこれまでのラジオ論に捉われない視点を忌憚なく論ずるところにあった。その論点も出揃った感があるので、この項からはこれまでのレポートを整理しつつ、これからのラジオが新たな社会において再評価されるためのいくつかの提案に纏めてみいたいと思う。


 ラジオ衰退の社会的要因はどこにあるか!

 民放ラジオの再生を願って、どこに視点をあて、何を再考していくのか、その視座は何なのか、それを考えるために現代が置かれている時代の流れや哲学的視点、またメディアの役割からみたラジオメディアの価値や可能性など、さまざまな分野から既成概念を挟まないで探ってきた。しかしその行き着く先は、民放ラジオという従来型の商業主義による立脚点がどうも不明確にならざるを得ない。それは一般企業の〈広告・宣伝〉という財源を経営資源としている現在の放送運営の基盤そのものの危うさにあるからだ。民放ラジオというメディアが社会的役割を担い影響力を回復していくには、こうした経営資源を前提にして事業展開を臨んでいいものかどうか、再検討すべき時にきているように思われる。

 事業のよって立つ経営資源を避けて民放ラジオ論は語れないが、この問題は一時棚上げし、後に重要な検討課題として詳しく触れていくこととし、ここでは民放ラジオが抱えている社会的環境というか根本的問題なのだが、この問題を整理し解決のための改革案として幾つかの提案に纏めていきたいと思う。先ずは民放ラジオが抱えている根本的問題を上げてみよう。以下2つである。
 (1)ラジオリスナーの減少問題(調査結果として年々減少)
 (2)ラジオ全収益の大幅な減少問題(最盛期の半額に減少)
 リスナーの減少については、NHK文化研究所による全国調査でも、(株)ビデオリサーチによる首都圏や関西圏民放ラジオ調査でも年々減少傾向にあり、特に若者層が著しく低下している。ラジオは50代〜60代以上のシニア層によって支えられていうるといって過言ではない。このままでいくと将来的に非常に難しい状況が生まれることを調査は示している。(関心のある方はNHK文化研究所による調査、ビデオリサーチ首都圏、関西圏、中京圏調査を参考にされたい。)

 民放ラジオにおける2つの問題は、今後の事業継続に対して最大の危機的状況である。事業から撤退の方向へ舵を切るのか、再生をかけて新たな舵取りをするのか、岐路に立たされている状況といっていい。実際に廃局を迎えたラジオ、テレビと合併したラジオ、ラジオ同士合併したラジオとその形はさまざまであるが、現実の出来事として生まれている。こうした状況が生まれているにもかかわらずラジオ業界全体では、これまでの延長線上の発想で乗り切ろうとする姿勢が多く、事業存続というシビアな視点で対策を練っているところはすくない。普通の業界ならば事業のインキュベーション事業を育て、近い将来本命事業に交代できるような企業姿勢が求められるところである。この意識の背景には、恐らく現在の経営者たちに民放ラジオの全盛時代入社したことと無関係ではあるまい。ラジオがマスメディアとして影響力を持った全盛時代、経営も含めて成功体験が意識下にあって、ゼロからの新規事業を立て直すという発想に乏しいのかもしれない。

 上記2つの現象は、ラジオ事業のマーケット縮小と受け止められるが、ではなぜマーケットが縮小しているのだろか。一般的には、ネット化したケイタイとインターネット登場によって、情報収集やソーシャルメディアの普及により利用者が増え、接触機会も広告もネットへ移行していったと受け止められている。もちろんラジオ接触率の低下はソーシャルメディアとの関連は大きいし、広告のネット移行も事実といっていい。しかし、ラジオの衰退の根本的原因はもっと深いところにある。21世紀入って社会のメディア環境が大きく変化したその最も大きなものに「デジタル情報基盤」の確立がある。分かりやすく整理して説明しよう。伝達手段がアナログからデジタルへ、通信の情報基盤が代わったことである。その結果、人々のコミュニケーション・ツールに変化が生じたのである。

 要因〈1〉デジタル情報基盤の確立とアナログからデジタルへの変革
 要因〈2〉ソーシャルメディアの普及がマスメディアの情報流通を変える
 要因〈3〉適応性を欠く既存マスメディアの情報流通システム
 要因〈4〉生活者の情報収集とコミュニケーション回路に変化
 要因〈5〉ラジオはマスメディアからミドルメディアへ転換
 要因〈6〉企業広告のマーケティング変化と衰退するメディア

 以上のような社会的要因を上げることができよう。これ以外にも要因はあると思われるが、主要な背景といえる。これらの要因を簡単に説明し、全体像を把握していくことにする。


 要因〈1〉デジタル情報基盤が確立とアナログからデジタルへの変革

 21世紀は本格的な情報化時代(情報革命の時代)といわれる。この情報化をもたらす基本がデジタル化で、いうまでもなくデジタルとはすべての情報を1と0の数字に置き換えて処理する技術である。情報基盤がデジタル化したということは、情報が分野を超えてコミュニケーションが可能となることで、情報の共通基盤が可能となる。デジタル製品が手元にあれば、いつでもどこでも誰でも情報を得たり交換したりすることが可能な環境ができる。ここにデジタル情報基盤の本質があり、これまでにない情報環境が生まれるということだ。この環境が急速に進展していて、パソコンは言うまでもなく、スマホスマートフォン)は勿論のこと、IPADのようなタブレット型端末が多く生まれ、いまではいつでもどこでも情報(コンテンツ)に接触できる環境が整ってきた。この情報の流通形態が従来のマスメディア事業に大きな転換を迫るほど強い影響を与えている。ラジオの情報流通はまさにその渦中にある。


 要因〈2〉ソーシャルメディアの普及がマスメディアの情報流通を変える

 デジタル情報基盤上に生まれた伝達網がインターネットである。世界に広がる蜘蛛の巣で、その名の通りwww(world wide web)だ。1999年日本の政府にIT戦略会議が設置され、2005年までに情報社会基盤を構築するため、2001年にIT基本法が施行された。それは2005年を待たず「光ファイバー」や「ADSL」などが急速に普及し、ブロードバンド環境が整った。その結果、インターネットを利用する人々が増え、ネット技術も進展していった。Web2.0という言葉が注目されたものこのころで、その後ソーシャルメディアといわれる情報発信や情報交換の可能なプラットホームの出現であった。利用者(ユーザー)が求めるさまざまな情報の発信、交換、検索、購買などが可能となった。このインターネットの情報流通が既存のマスメディアの情報流通システムを変革せざるをえない環境を創っていく。マスメディアの垂直型情報流通からソーシャルメディアの水平型情報流通への大きく変化である。この変革こそ新聞雑誌、テレビラジオというマスメディア、特にラジオ事業への影響は計り知れなかった。(了)(この項、要因〈3〉からは次回につづく。)


〈参考資料〉
・(株)ビデオリサーチ:ホームページ記載の調査結果より参照
・ 民放連研究所発行 「2012年度テレビ・ラジオ営業収入見通し」より参照
・ 「インターネット新世代」村井 純著/岩波新書
・ 「2011年新聞・テレビ消滅」佐々木俊尚著/文春新書



〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・