【第113話】デジタルラジオのかたち・私論 (その33)

ラジオの課題はネットとリアルで生まれる新たなコミュニティとの連携だ! 

 ラジオとネットについてこの項を進めてきているが、なかでも今回はネットコミュニティにスポットを当ててみよう。最近「ネットメディア」という表現よりも「ソーシャルメディア」という言葉の方が主流を占めているようだ。こればWeb2.0が登場して以来さまざまなプラットホームが出現し、なかでも交流サイトといわれる分野が注目の的である。ミクシー、フェイスブックツイッターは、いまやマスメディアを脅かす存在になり始めている。現在これらの交流サイトは大きく4つの分野に分けられるという。その1つは「ブログ」に代表されるもの。2つ目は「画像を共有」するもの、ストリーミング系のYouTubeやUstreamほかだ。3つ目は「集合知識」、ウィキペディアに代表されるもの。そして4つ目が「ゲーム」関係である。これらをまとめて「ソーシャルメディア」と呼ばれている。

 これら「ソーシャルメディア」がメディアとして役割を果たし出した一例を、前回の当ブログで、ツールとしての役割やコンテンツの視聴を大震災に関する事例から触れた。このソーシャルメディアのメディアたる所以は、それぞれのプラットホームが独自のソーシャルグラフソーシャルメディア上で繋がっている人間関係)を持っているということだ。その繋がり方は同好関係の繋がりからアカデミックなものまで千差万別だが、趣味趣向や考え方の近い繋がり、ネット上における「コミュニティ集団」といえる。この繋がりが繋がって大きな影響力を生み出すのだが、ツイッターなどは入ってきたツイート(情報)にRT(retweet)を付けてフォロしている人に発信すれば一気に情報が拡大伝達できる。この機能がマスメディアより早い伝達手段になることがあり、ここに情報のマス化が生まれる。そこで重要な意味をもってくるのが、交換される良質の情報やそのやり取りである。

 最近「インフルエンサー」という人々がネット上で登場している。ネット上で、カリスマ的大きな影響力を持つ人をいう。具体像は感度の高い芸能人、ファンションモデル、スポーツ選手、知識人、著名なブロガーなどである。この人たちが発信する情報が多くの人に関心を呼び、影響力を与える。ラジオでいうならばパーソナリティがその役割を果すのだが、考えてみればラジオのパーソナリティがインフルエンサーになり、ラジオだけでなくネット上でも大きな影響力を与えるような存在になるならば、ラジオの復権にも大きな影響を与えるように思えるのだが・・・。

 さて、ラジオはこれまで一方的な情報伝達に終わっていたメディアだったため、インターネットの発達とソーシャルメディアのプラットホーム出現によってインタラクティブな情報交換が進んだ結果、次第にその影を薄らぐようになった。ラジオの持つ一方通行の効果がネット時代には不利益に結びついているのだ。実際に若者から大人層までラジオ離れが進み、聴取率の低下、営業成績の低迷へと繋がり、苦境を強いられている状況である。ラジオが見失っているところは、リスナーとの間に生まれていたパーソナル・コミュニケーション、言い換えるとラジオの心の会話は、ラジオだけでは通用しなくなったのである。時代はもっともっと強い人間の繋がりを求めていたということである。それがインターネットという時間と空間を埋めてコミュニケーションが可能となったことにより、一気にリスナーはネットに流れたといえる。そして、その繋がりが一層深めることを可能にしたのがソーシャルメディアだったのである。

 マスメディアとソーシャルメディアの相関関係を図式化してみるとこんな形になる。縦軸に時間(少ない時間→頻繁な時間)、横軸に利用者・顧客(少数から多数)を置いてみると、マスメディアは図の右下から上に位置するのに対し、ソーシャルメディアは図表の左上に、ラジオは中間に位置づけられる。このことからもラジオはネットと親近感があるといわれてきたが、その通りだ。しかしその親近感を受け手に実現させる方法がまだ開発されてきていない。ラジオとリスナーの繋がりをもう一度しっかりした形で再現するにはこのソーシャルメディアとしっかり連携する必要がある。そのための連携方法をどのように構築していくかが、これからの大きな問題になるに違いない。ソーシャルメディアはネット社会に生まれてまだ間もない。この3〜4年である。ネット社会においてその位置づけがどんな形で定着するのかはかだ見えてこないが、ラジオはこの模索時代にこそ、将来を見越したネット連携のあり方を研究し、手掛けられるところから取り組んでいくべきであろう。

 ラジオの再構築は、これまでみてきたように、新たな社会的役割を果すことによって再評価されねばその存在価値を失ってしまう。新たな時代にコミットメントするには、新たな時代の社会的基礎となるコミュニティ形成に注目し、コミュニティの育成と発展にその役割を担っていくことが最も重要であろう。その社会的基礎の再構築がコミュニティ集団であり、そのコミュニティが果す役割がソーシャル・キャピタルなのである。ソーシャル・キャピタルについてはすでに第111話で詳しく触れているのでそちらを参考にしてもらいたいが、「ソーシャル・キャピタル」の実現させるのは「コミュニティ」であり、その「コミュニティ」が人間社会の繋がりを構築することによって、心の通った社会の実現が可能となってくるのである。これからはインターネットによる「ネット・コミュニティ」(ソーシャル・コミュニティともいう)と現実社会に根ざした「リアル・コミュニティ」とが、時には単独に、時には融合しあって、社会的成果に寄与する活動が生まれてくるであろう。ラジオはこの存在を注目し、何らかの関わりを持ち、共同活動が生まれる仕組みを創り出していきたいものである。(了)