【第111話】デジタルラジオのかたち・私論 (その31)

       
         これからのラジオは地域と密着した“コミュニティ”の存在と強い繋がりを持ち、
         その活動と積極的にを取り込むことがこれからは重要性を増していく。ラジオは
         その“コミュニティ”の新たな社会的存在を認識し、積極的な関わりを持つこと
         に、これからの社会的貢献や文化的貢献が潜んでいるのではないか、と思われる。


■ ラジオが注目すべき新たな時代の“コミュニティ”とは!

 地域生活のなかで“繋がり”とは、“コミュニティ”とは、いま一体どんなかたちが求められているのであろうか。この課題に対して示唆に富んだ提案をしている広井良典教授(千葉大学)の“新しいコミュニティ論”を紹介しておきたい。広井教授はこれからの日本社会のあり方を様々な角度から分析し提案し続けているが、今回の東日本大震災復興計画についても、将来を見据えた具体的な提案を行っており、そのなかの中心課題を“地域コミュニティ”のあり方に置いている(緊急提言:東日本大震災・今後の日本社会の向かうべき道/全労災協会 2011年7月)。

 広井教授の構想は、コミュニティを大きく2つに分析し、その2つの融合型がこれから求められるコミュニティである、としている。1つ目は古来から培われてきた“同心円を広げてつながる”―「共同体的な一体意識」(の原理)。これは家族という円の中、故郷という円に中、全国的にはオリンピック選手の活躍を応援するような国民の円の中、といった情緒的な一体感、そのなかには「ウチ」「ソト」あるいは「身内」と「他人」といった閉鎖的な要素を潜在的に持っている共同体である。日本社会において長年培われてきたコミュニティである。2つ目は“独立した個人としてつながる”―「個人をベースとする公共意識」(の原理)。自分とは異なる存在の「個人」とつながっていく、という繋がりである。これは個人と個人が「大きな円」として“一体化”するのではなく、あくまで独立した異なる個人ということを維持しながら、ある種の「超越的な原理」を媒介としてつながっていく、かたちという。なかなか難しい文脈ではある。(参考資料:広井良典著「持続可能な福祉社会」/2006年:「コミュニティを問いなおす」/2009年参照) 次に、より理解を深めるために分かり易い事例を上げてみよう。

 現在日本各地で活躍するNPO法人は年々増大の一途を辿っている。内閣府の統計によると、2011年8月現在4万3000のNPO法人認証件数となっているほどで、毎年3000件から4000件増加している。今回の大震災でも注目を集めたところである。このNPO法人に代表されるように、目的を持て活動するコミュニティを思い浮かべると近いのではなかろうか。福祉ボランティア活動や高齢者ケアの活動グループ、地域防災コミュニティといった団体もある。我々の日常生活を支える共同体として身近である。これらに共通するものは、目的を持ち、規範のある繋がりを維持している。個人が意思を持って参加し、組織と繋がりのなかで目的を実現していくあり方は、考えてみると非常に都会的であり、現代的でもある。広井教授のいう「つながりの2つのかたち」は、それぞれに長短があって、どちらか一方が優れているというものではなく、両者が必要であり、その「バランス」の取れたかたちを基本とするのが相応しい、といっている。


■ 新たな時代の“コミュニティ”の役割とラジオの関係

 実例を持って説明しよう。横浜市にあるコミュニティ放送局「FM戸塚」では「スポーツゴミ拾い」という活動を行っている。「日本スポーツGOMI拾い連盟」と連携したもので、街のゴミ拾いをスポーツ化したユニークな催しである。ラジオとこの活動がジョイントして好成績を上げ地元で話題をまいている。地元住民の家族チーム、職場チーム、自治会チーム、商店街チーム、区役所の職場チームといったさまざまなグループで、150人ほど参加し賑やかに繰り広げられている。参加者は拾ったゴミの種類による点数を競い合って楽しむ競技である。その催しは街の自然環境整備や市街地の美化に貢献する一方、これはまさに上記2つのコミュニティが1つになった典型的なかたちといえないだろうか。「スポーツGOMI拾い」というコミュニティのかたちは街のゴミを拾い整備するという「目的」を持ち、それを推進するためには様々なルール(規範)を設定しグループによる共同作業を行うものだ。家族、職場、町内会というこれまでのコミュニティと、活動に目的を持ったコミュニティがこのイベントでは一体化している、広井教授の提案する新たな時代の新たなコミュニティのかたちは、すでに形になっているのである。おそらく全国的にみるとさまざまな分野でこうした動きが起こっているに違いない。

 9月26日放送されたNHKテレビの「クローズアップ現代」では、東北の被災地で“放射能から子供たちを守りたい”という主婦たちの活躍を紹介していた。原発事故から半年、行政が手をこまねいている食品や土壌の放射能測定など、自分たちの手で問題を改善する活動だ。被災地の30~40代のごく普通の主婦がネットワークをつくり、いまや200余団体、1500人余に活動が広がっているという。行政に働きかけたり、校庭の除染を実現させたりと、その活動は広く盛んである。今回の大震災で、政府、行政、東電への信頼をなくし、自分たちで行動を、という危機意識が背景にあると思われるが、こうした行動、活動は注目に値する。「ソーシャル・キャピタル」(社会関係資本)はいま社会学で注目され、全国の地域活性化で導入されてきているが、その基本は地域住民の「信頼」「規範」「ネットワーク」によって結ばれた“コミュニティ”の活動である。これはまさしく地域社会の社会資本にふさわしい。このような地域活動を実践する“コミュニティ集団”の存在こそ、新たな時代の新たなコミュニティの姿であろう。今後全国的に大きく広がっていくことを期待したいところである。

 ここで新しい時代の新しいコミュニティのあり方を強調して書いているのは、これからのラジオメディアにとって大きく関わらねばならない分野ではないかと思うからである。日本国民が21世紀の豊かな暮らしを創り上げていくには、日常生活と密着した新たなコミュニティ活動が必要不可欠な存在である。そのもとにあるものは、人と人との関係を大切にし、人間らしさを実感したいという生活者の求める意識であろう。それが豊かな暮らしの基礎の部分であろう。コミュニティの存在とは、そうした生活環境を創り上げる環境であり、その延長線にはその人自身が生活する地域の活性化につながっていくことになる。

 ラジオメディアは、このコミュニティとの連携を強くして、それぞれの活動を支援しながら、新たなリスナー関係を結んでいくことは非常に大切であり、ラジオのメディアとしての役割果たす分野といえるのではないだろうか。これまでのように、ラジオがコミュニティの活動を名義主催として支援するというレベルに留まらず、その活動が社会的キャンペーンに繋げていく積極的な姿勢が求めたれるように思う。こうしたラジオメディアの活動が新たな社会への役割や貢献につながって、ラジオの存在が再認識されていく。ラジオの受け手である「リスナー」は時代の変化によって意識、性格、資質も大きく変質してきていることをラジオ自身が自覚することではないだろうか。(了)