【第109】デジタルラジオのかたち・私論(その29)

       これからのラジオの行方はデジタルラジオのかたちに懸かっている。
       では、そのあり方は・・・そんな視点からこのブログを綴っている。


【道標C】 ラジオと表裏一体であるソーシャルメディアの構築

 当ブログでは、新たな時代に適応するラジオはどんなビジョンを持ち、どんな戦略で臨んだらよいかをさまざまな視点から考えてきたが、これからはインーネットとの関係やラジオの新たな事業形態などに対して、議論してみたいと思う。現在ではラジオ論を展開する時にインーネットの存在なくして語らない。ここではラジオがインーネットをどのように捉え、ラジオメディアとネットメディアを融合した新たな事業構築に向かわねば、ラジオの存在はないと考えていいであろう。ラジオが現在ネット配信し、ホームページの充実を図っていることは周知の事実だが、果たしてその路線だけでいいのであろうか。もっと根本的にネットメディアを研究し、その本質に沿った活用方法を構築して行かないとラジオメディアの将来おぼつかないと危惧するのは私だけだろうか。

ジオメディアの視点から探る現代社会の変容
 ラジオを含む4大メディアが大きく変わろうとしている現在、その背景にはどんな流れがあるのだろうか。20世紀の終わりから21世紀にかけて、歴史的大変化が起きている。その変化の潮流を捉えておかないと将来がみえてこない。150年前の幕末から明治にかけての転換に似ている。ただあの頃と異なるのは、日本が高度成長を遂げてから起こっているため、日本国民には切実な緊迫感が起こっていないところの違いがある。そこに政治をはじめ経済社会全般に緩みが生じていて、すべてに改革推進を遅らせている環境がありそうだ。

 この歴史的大転換の基となっているのは何であろうか。これは先進各国に共通していることだが、工業化によって「豊かな社会づくり」を目指してきた目標に大きな壁が立ちはだかった。それは資本主義社会の行き詰まりである。拡大再生産による自然破壊の進行、大量生産による製品過剰な市場とデフレの出現、エネルギーの過剰な消費による石化燃料の枯渇、といった豊かさの追求に伴う負の遺産を抱えてしまったのが20世紀文明ではあった。21世紀はさらに「豊かな社会づくり」を追求するためには、負の遺産を解決しつつ、新たな幸せの枠組みを創り出さねばならいという課題を背負っている。この“新たな幸せづくり”を求めるビジョンと施策は我々ラジオメディアにとって、明日のラジオと関連するところが大きいので、もうしばらく歴史的変換の動きを見詰めたい。

 失われた20年とかいわれる。その間にどんな変化が起きていたのだろうか。バブル崩壊以降、景気回復、経済発展を唯一の目標として政府や経済界が追い求めている間に、人々は、厳しい生活のなかにも“豊かさ”を求めて動き出していたのである。この動きを分かり易く表現するならば、数字で判断できる幸せから数字では判断できない幸せを求める動きではなかったろうか。お金儲け、損得勘定が横行するなかで、お金に換算できない生活領域へ人々の関心が移り始めていたということだろう。自然環境の大切さ、自然エネルギーへの強い関心、ボランティア活動へ、福祉への関心や人間の繋がりとしてのコミュニティへの注目といったように、それ自体の活動からお金に換算できない分野へ、人々の関心が大きく移ってきていたのである。その奔流は“心の充足”である。成熟社会ということばより福祉社会という表現の方が多く使われるようになったのも、幸せをつくるための環境づくりにあるからだろう。福祉とは幸せのことだから。こうした変化を、時間軸に価値を置いた時代から空間軸に価値を置く時代への変化と捉える研究者もいる。なるほどと思うのは、経験的にいうと、会社生活中心の高度成長時代のサラリーマンと、家族融和や地域活動に時間を割く現代のサラリーマンを比べてみれば、時間的価値と空間的価値の変化がよく分かる。時間に追われた時代と“幸せだな”と感じる空間を求める時代への価値観の変化である。

 さて、こうした成熟社会への対応、福祉社会の構築として多くの関心を集めている現象がある。その1つがアジアの小国「ブータン」の掲げている国家目標“国民総幸福”への注目である。この目標をGNH(グロス・ナショナル・ハピネス)という。成熟社会=福祉社会の構築という視点からみると、とても貴重な指標と思うが、日本では文化人類学者の辻信一氏らが提唱している新しい指標でもある。この内容について詳しくは書籍「GNH もうひとつの〈豊かさ〉へ、10人の提案」(大月書店)を参考にしていただきたいが、主な視点は「持続可能で公平な社会開発」「自然環境の保護」「有形、無形文化財の保護」「良い統治」という4つの柱からなっている。これに関して具体的に実践を試みている市町村が現れた。東京都荒川区である。“荒川区民の幸福の総量”を増大させていく目標を掲げて、このGNHをもじったGAH(グロス・アラカワ・ハピネス)を実施している(荒川区のWebサイト参照)。国家レベルではなく、地域レベルでこの福祉社会に取り組んでいこうという試みにユニークさがある。これからのラジオメディアから考えると、この地域レベルで、ローカルレベルで福祉社会実現のために取り組む姿勢が現れていることにラジオメディアは大きな関心を抱くべきで、これから新たな社会的役割を果たしていくラジオメディアの視座が含まれているように思う。ローカルという視点とラジオメディアの社会的役割、この点についてもう1つの社会的流れについて触れたいが、これは次回にしたい。(了)