【第108話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その28)

これからのラジオの行方はデジタルラジオのかたちにある。では、そのあり方は・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな視点からこのブログを綴っている。


広域ラジオの多チャンネル化・多様化のなかのコミュニティ放送のあり方

 前回、前々回では広域ラジオの新たな方向性を提案したが、コミュニティ放送はどう考えたらいいのだろうか。そのあり方を分かり易くするため、次のような大掴みの絵柄を描いてみる。すなわち、地方分権時代(地域主義時代)を先取りして、たとえば、東北ブロックでは仙台市を州都としてブロックキー局が多チャンネル化、多様化番組編成を行い、東北全体をサービスエリアとして放送する。県域ラジオはローカル情報提供プラスアルファ程度にとどめる。そして県単位より狭いエリア、現在のコミュニティ放送エリアより広い範囲をコミュニティ放送が担当する。これを全国地図から俯瞰すると、全国エリア(全国放送)は各ブロックキー局がネットワークを組んで放送、ブロック放送は州都にあるキー局(現在の県域局連合)が放送、それより狭い地域エリアは新コミュニティ放送が担当して放送、といった構図である。(ここでは民放ネットワーク網やテレビ・ラジオ兼営局の課題には触れない。)

 コミュニティ放送は、地域生活と密着した情報提供と地域を支えている組織団体やコミュニティ・グループの参加によって成立する、より地域性を重んじる放送であるが、現在のコミュニティ放送と比べて当案ではより広いエリアを想定している。地域の大きさにもよるが、3市町村〜4市町村を含むエリアである。現在施行されているコミュニティ放送の免許基準「1市町村の一部」をカバーするエリアとなっているが、これは平成の市町村大合併、あるいはモータリゼーション、鉄道網の発達などにより、地域生活圏の拡大という現状から合わなくなっている。これも制度疲労の1つであろう。(総務省では現状のエリア拡大について検討を重ねているようである。)イギリスのコミュニティ放送では3市町村をエリアとし、各自治体が放送局運営費の半額を拠出することになっているという。もう半額は放送局の営業努力で賄う。実に合理的な考え方ではないだろうか。地域の経済性、地域情報性など考え合わせるとこちらの方が事業的に地域メディアらしい。

 日本の民間放送は、放送免許を得ると、後は放送局の自助努力のみである。コミュニティ放送も例外ではない。県域と異なった環境にあり、その環境から生まれる放送局には成立過程によって経営の差が生まれがちである。例に取ると、自治体主導型から生まれるコミュニティ放送と純民間主導型のコミュニティ放送では、経営上に開きが生まれている。それは自治体から資金提供があるからである。同じラジオでも県域ラジオとコミュニティ放送ではすべての面で環境が異なる。地域メディアであるコミュニティ放送は、これまで県域ラジオが辿ってきた経営的あり方を、そのまま引き継いで放送局に任せてしまうことは果たしていいものかどうか。情報化時代のなかにあって、各自治体はもう少し地元コミュニティ放送に関心を持ってもらいたいし、地域という経済的に弱い環境にあるコミュニティ放送を制度的に支援できる方策を考えることも、これからのラジオ行政にとって重要な課題ではないかと受け止める。

 この課題についてもう少し触れると、本来地域密着情報、特に地元自治体の情報を現在のコミュニティ放送は積極的に提供しているが、自治体の大方は放送への協力に積極性を欠いているところが多い。政府、行政などが地域活性化を、声を大にして唱えているにもかかわらず、地域のコミュニティ放送局は放って置かれるのである。今回の大災害のように、ことが起こると慌てて乗り出してくる。しかし資金手当てはしない。今回の東北での災害では、日本財団が一時的な資金提供を行ったので、各局とも一息ついているところであるが、今後長引くことを考えるとまた問題化するのではないだろうか。地域メディアとしてコミュニティ放送局臨時災害放送局も、性格が異なるものの、地域生活者に対する掛け替えのない情報提供がその役割となっている以上、やはり制度的にできる支援体制が必要であろう。

 コミュニティ放送の経営面から番組編成へ目を転じよう。広域ラジオはブロック放送として多チャンネル化と多様化番組編成の必要性を説いたが、コミュニティ放送ではどうあればいいか。考え方の原点として、21世紀のラジオはひと括りのメディアではなく、リスナーが求める番組編成によって様々なあり方があっていい時代ではないか。全国メディアとして果たしているNHKラジオの役割とコミュニティ放送のように地域メディアの役割が違うように、また経済環境やビジネス環境に視点を当てた番組編成をする日経ラジオのように、各分野に特化した放送視点があっていい。コミュニティ放送の場合は、地域の様々な情報提供と共に、地域の活動を支える組織団体やコミュニティ・グループの交流のスペースとするラジオが番組編成を考える中心軸になる。

 したがって、コミュニティ放送の番組編成は、地域生活者の生活環境に役立つ情報提供と参加性が重要なキーワードになる。情報提供に関しては、地域情報が常時提供できる情報源を整える必要がある一方、参加性は番組出演やインタビュー出演ほか、市民イベント、さまざまなグループの集いなど取材と出演、といった様々な方法がある。番組編成としてのあり方は、NHKラジオのように「総合編成」となる。総合編成とはニュース、報道、教養、教育、娯楽など生活に必要な分野が総合的に扱われている番組編成をいう。コミュニティ放送は規模が小さいため、番組制作費と担当スタッフが少ない。それだけにどれほど地域生活者を満足させる総合編成を実施できるか、どれだけ内容の充実した番組が作れるかが大きな課題として内在している。コミュニティ放送とリスナーとの関係は、〈アクセス〉と〈参加〉にあり、その立体的繋がりとどのように構築するかにかかるだろう。

 今回のテーマである「広域ラジオの多チャンネル化・多様化のなかのコミュニティ放送のあり方」については、以上のような視点を持っているが、問題は広域ラジオの今後の方向性をどのようにして打ち出していけるのかである。このままでいけば、恐らく県域ラジオはネットラジオを開始したとしても本質的な解決ではないので、衰退は免れないだろう。それだけに、深刻度が深いように思う。


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