【第107話】デジタルラジオのかたち・私論 (その27)

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■ ラジオの多チャンネル化・多様化編成とローカルラジオの関係について
 多チャンネル化と多様化番組編成は、関東や関西の大都市だけを対象とした案ではない。北海道や九州などローカルエリアも含んでの発想である。そのためにはもう少し、ローカルエリアのあり方について触れておこう。そもそも多チャンネル、多様化番組編成という発想は、1つの放送局が放送波を複数持ち、その放送波を生活者ニーズに沿った複数の番組編成で対応して行くことであるが、現在のアナログ放送では難しい面が沢山ある。それは現在1局1局が独立事業者であり、キー局との系列があるからだ。一方、デジタルラジオの分野は現在マルチメディア放送に集約されているが、新規参入を含めて2013年頃から放送開始され、一般ユーザーの身近な存在になるまで、受信機の普及や聴取機会の増大には、早くて5〜6年から普通なら10年の月日がかかる。そうするとこの先10年から13年は、現状のアナログラジオが中心となって放送していくことになる。こうした環境のなかで多チャンネル化、多様化番組編成をどのような形で進めていけばよいかが大きなテーマとなろう。1つの方法としてこんな発想を抱いてみたがいかがであろうか。

 日本の社会は現在地方分権へと流れを加速させている。今度の大震災でも復旧復興に関して被災県に対し大幅な権限移譲を行うべきではないかという意見が多くの知識人から提言されていることは周知の通りである。政府は遅々としてその提言や方針を採用しようとしない。この辺に為政者の時代感覚の鈍さが現れているのだが、地方分権の流れは半世紀にわたって支配してきた五十五年体制という政治の枠組みが崩れ、すべての面で制度疲労を起こしている現実があり、一方、地方地域に住むゆとりのある生活者は、自分たちの生活圏をより一層活力のある環境にしたいという意識が高まっており、地方政治や都市づくり、生活者の営みに様々な影響を与えている。道州制導入の提言はこうした背景の基に提言されているが、遅々として進まないのが現状だ。

 時代の流れ、社会の流れ、また将来のあるべき姿を考えると、地方分権の時代は避けられない。それを見越しての発想だが、地方ブロックという現在の県単位より大きな地域のなかで多チャンネル化、多様化番組編成のラジオ局を考えてみたらどうだろうか。地方ブロック、たとえば東北ブロックでいえば、宮城県を中心に青森県岩手県秋田県山形県福島県の6県のラジオ局が連携し、東北州(奥州といってもいい)を1つのサービスエリアとして構築する方法だ。州都仙台市に本社を置き、サイビスエリアは東北全体となる。放送法で認められているホールデンカンパニー制度を援用し、各県のラジオが1つの会社に集合して展開する案である。仙台にある本社が多チャンネル化、多様化番組編成を行うが、各県の支局はローカル情報提供の枠を残しておく程度にする。総務省では現在ラジオにおいて施行している県単位に免許するチャンネルプランを変更する必要があるが、それはともかく、これでいくとAM系列とFM系列の2社体制、NHKを含めると3つの系列がブロックのなかで競い合うことにある。設備投資の高額なAMはFM電波に変えてFM2系列となってもよい。地方の電波事情には余裕があると思われるので可能性は高い。この放送は当然インーネットラジオとしてサイマル放送するのは当然である。

 現状のラジオはローカルラジオ局において衰退が著しい。現状の経営環境を考えると抜本的方策を取らねば潰れかねない。その意味でもブロックのラジオ局が一堂に集まり、多チャンネル化、多様化番組編成を採用し、経営効率を上げていくことはあながち的外れな考え方ではないように思うがいかがなものであろうか。将来マルチメディア放送の普及した暁には、アナログラジオがどのように連携を図っていけばよいかが課題であるが、いまはそこまで考えなくてもいいように思う。1つだけ触れておけば、LowBand(90MHz〜 108MHz)のマルチメディア放送の事業は、既存のラジオ事業者が大きく関わっているので、将来的には連携が取り易い可能性がある。先年7月に公表された総務省の「ラジオ報告書」には、アナログラジオマルチメディア放送サイマル放送することを提案されていた。

 今後のラジオを考えた場合、全国のアナログラジオが上述した多チャンネル化、多様化番組編成に経営方針を切り替え、インーネットラジオの再送信を併せて取り組んでいけば、新しいマーケットの創造が可能のように思われる。もちろん当ブログで指摘しているように、ラジオがミドルメディアとして広くなくても浸透力のあるメディアとしてリスナーに歓迎されたならば、という前提がつくのであるが・・・。他方マルチメディア放送がこの10年から13年をかけて、もう1つのマーケットを構築したとしたならば、いい意味での競合メディアとしてラジオの活性化に繋がるか、それともアナログラジオマルチメディア放送へ吸収といった方向性が生まれてくるのか、将来はわからない。

 ただ、ここで指摘したおきたいことは、アナログラジオは現在ラジコでネット放送を展開しているが、(ローカル局はこれからだが、)ネットを活用して放送を行うことは、すでにデジタルラジオであることを認識しておきたい。ネットではあらゆるコンテンツの配信ができる。どこのラジオ局もすでに活用しているユーチューブやポドキャストでのコンテンツ配信やブログ、SNS、ツイッターなどによるリスナーとのコミュニケーション、コミュニティづくりなど、これまでできなかったラジオとリスナーとの関係性がネットのお陰で新たな形で出来上がりつつある。マルチメディア放送が実現しても、すでにそのノウハウが整っているならば、一歩リードしているといっていいだろう。これはマルチメディア放送に対して大きなアドバンテージだが、当ブログがテーマとしている、リスナーという生活者のラジオに対する本当の期待に、本当のニーズに、現在のラジオは応えられてはいないことが問題なのである。(了)