【第105話】 デジタルラジオのかたち (その25)

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トピックス    NHKラジオが民放の10年度入賞番組を放送予定 
NHKでは地方の民放局が制作した番組コンクール入賞作品を放送する。7月2日午後4時5分から山形放送「YBCラジオ報道特別番組 飲むか、生きるか〜断酒会につながって〜」(民放連賞ラジオ報道最優秀)。青森放送高橋竹山生誕100年記念番組ラジオドキュメンタリー故郷の空に」(文化庁芸術祭賞ラジオ部門大賞)。7月3日は同時間に北海道放送「HBCラジオ開局60周年記念ドキュメンタリー『インターが聴こえない〜白鳥事件60年目の真実』」ギャラクシー賞ラジオ部門大賞ほか。
コメント 影響力の大きいNHKラジオが民放の秀作番組を放送することは、極めて大切な活動で大いに歓迎したい。ラジオの評価を高める活動である。注目したい。   
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前回からのつづき・・・
(D)放送とネットの連携によるリスナーとの立体的関係の確立

 「ラジオは“癒し”のメディア」という見出しで新聞「民間放送」6月13日号に、増田隆一氏(朝日放送)の記事が掲載されている。前回触れた表題の文脈と軌を一にしているので紹介したい。記事の前半は、ラジオの歩みのなかで「一家の中心的情報端末」から「個人向けパーソナルメディア」への移行した結果、メディアの性格が変わった本質を放送事業者は明確に認識していなかった、と指摘する。それはいずれ「パーソナル精神活動メディア」(携帯型プレーヤーや携帯電話)が汎用するようになり、ラジオ自身の危機に繋がるはずだった、その認識が不足ししていたという。

 民放ラジオ60年の歴史を振り返る時、最初の20年にはそうした一面はあったかもしれないが、むしろラジオがパーソナルメディアになってからラジオの大きな変化があり、カーラジオ、ウォークマンなど携帯機器とラジオが結びついた聴取形態がその後20年ほど続く。1時代を築いている。CDプレーヤーは1980年代、MDプレーヤーは1990年代の登場で、若い世代は徐々に携帯オーディオ・プレーヤーへ移行し始める。この間にテレビゲームも急速な普及し始め、若者からやや上の層までラジオから遠ざかっていく。2000年に入り、デジタル・オーディオ・プレーヤーが一急速に普及し、ラジオの接触が著しく減少する。リスナー離れと収入減少というラジオの危機はこの10年といっていい。この10年の危機を乗り越えるために、放送事業者は1990年代にその対策が必要だったわけで、その意味をいっていっるのなら分かる。

 記事は続いて放送広告の面からラジオの特性について触れている。ラジオは「聴取によって形成された市場に対する広告」として営業のプロモーションになり、その市場を測る物差しとして聴取率調査を行い、放送局の支持率と解釈した。「これらは『プッシュ型情報サービス』の特性に付随するもので、根幹にはメディア=放送局に対する信頼があると考えて差し支えない」といっている。リスナーからの信頼は、聴取率調査による結果だけでなく、さまざまな方法で確認できるが、大切なのは、ラジオがリスナーから信頼されたメディアだ、という点である。

 ラジオ広告がインーネットに奪われているが、ラジオとネットの本質的違いを、記事はこう指摘する。「IT革命後、PCやケイタイに流れた広告費は『検索型情報サービス』への広告到達を基にしており、メディアへの信頼度に依存しないクリック数などの指摘が基礎にある。『市場への広告到達』と単純には大括りできない要素が色濃いことに注意しなければならない。」誠にその通りであり、この文面は広告に置いているが、コンテンツの内容にもいえることではないか。大事なことはラジオとネットを分けて考えるのではなく、一体として捉え、信頼度と高密度の情報内容へ高めるラジオでなければならない。その点、当記事の後半の指摘は貴重である。

 「スマートフォンタブレットなどデジタルメディアとの整合面を拡張しなければ、AM・FM放送はある瞬間に断崖に直面するだろう。」といい、「ITCコンテンツへの展開=クリック型広告やHTML二次リンクなどの販売スキームを、速やかに取り入れる必要がある。」「SNSは事業の性格といい、形成コミュニティといいラジオ運営との親和性が高いはずだ」指摘する。この点は当ブログの前回で触れている内容と同じだ。記事の最後に「放送局はITC分野の営業ノウハウの蓄積に乏しい。したがって、ITCでの事業戦略に強い人材の養成・ヘッドハンティングを進めねばならない。」また、経営陣には「放送・ITC両面の深い造詣が要求されるであろう。」といっている。炯眼だ。

 どのラジオ局もこの問題で悩んでいる。しかし遅々として進まないのは、経営陣にITC知識が不足している上に、放送という公共的役割を果たしてきたこれまでのプライドや意識が強すぎて、というか邪魔をして、ITC分野の重要性や認識に隔たりがある。またネット社会の認識も薄い。ネットにラジオ配信することで事足りるのではないのである。この現実こそ直視し、経営を切り替えないとラジオの未来はない、といえる。ラジオ経営陣はこれまでの時代は終わり、新しいネット社会が登場していることを、身をもって知ることが大切なのではなかろうか。

 増田隆一氏の記事は、経営視点、ラジオ営業視点にやや焦点が当てられているが、これは業界紙なので止むを得ないことだろうが、“ネット社会におけるラジオメディア”という視点も重要である。メディアは影響力を持たねばメディアでない、ということを持論としているが、これまでの電波メディアとネットメディアを融合したラジオはメディアとしてどのような影響力を創造していったらよいのか、また、その影響力のなかで社会的、文化的役割を果して果さねばならない。ここが大きな課題であり、影響力が生まれねば広告も得られないのである。これまでのラジオの力とネット融合の力が一つになってかつての影響力を取り戻す、という発想もあるが、それでは既成概念としてラジオが座っている。そうではなく放送というラジオと通信というネットが融合したことによって“新たなメディアを創造する”という発想の方が新時代にふさわしいのだ。新しい世代による新しいラジオメディアづくりが求められている。(了)