【第104】デジタルラジオのかたち・私論 (その24)

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トピックス  ▼▼ 災害情報の入手先はラジオがトップランク!! ▼▼ 
 大震災の東北地方で行った2つの「災害に関する調査」の結果がある。1つは「宮城県沿岸部における被災地アンケート」(〈株〉東日本放送と〈株〉サーベイリサーチ)の調査、もう1つは「東日本大震災調査」(〈株〉ウェザーニュース)である。前者の「大津波警報の認知媒体」では1位は54%で防災無線、2位が27.3%でラジオである。後者の調査で被災地での情報入手では1位はラジオで63%、2位のテレビ50%より高い結果が出ている。震災後の調査では、阪神淡路大震災の時も同様な結果がでている。これほど通信メディアの多くなった時代でも、ラジオの力が強いことを証明している。(詳細を知りたい方はネット上で発表されているので参照されたい。)
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(D)放送とネットの連携によるリスナーとの立体的関係の確立


 これまでミドルメディアとしてのラジオ論をいろいろな角度からみてきたが、今回はラジオとネットの連動性がどのような意味を持っているのか、ネットをどのように活用していったらいいかを探ってみたい。最近やっと県域ラジオは「ラジコ」というネットラジオ・プラットホームができ、関東・関西を中心に全国に広がりつつある。コミュニティ放送では、ラジコに先んじて「サイマルラジオ」をスタートさせ、利用局は70局を超えている。ここではネットラジオを考える場ではないのでこれ以上触れないが、放送上の位置づけとして、これからのラジオは“右手に電波、左手にネット”として両方とも欠かせない存在であるということをしっかり受け止めておきたい。ラジオにおけるネットの位置づけは放送と同等の位置づけにあることを認識することが大事だ。ここではむしろ放送局のホームページ(ウェブページ)について考えたい。

 全国のラジオ局はネット上のホームページを開設していない局はない。あり得ないといっていい。それほどラジオにとって重要な意味を持ってきた。ラジオがネット上で情報発信やリスナー・コミュニケーションを図っていくことを考えると、ホームページといういい方よりウェブページといった方がより近い、いや、さらにウェブメディアと呼んだ方がふさわしい。このウェブページをメディアとしてみた場合、各局のネット情報が十分かといえば、首を傾けたくなることが多い。なぜか。おそらく、ラジオというメディアとネットというメディアが融合するための発想が未熟ななのか、あるいはウェブの捉え方にあるのではないかと思う。すなわち、ラジオは主で、ネットは従、といった受けとめ方だ。


 当ブログで以前に触れたのだが、ラジオの今後には、電波で放送するラジオとネットで配信するラジオとは同列となり、しかもウェブページ上では放送コンテンツの内容が発信できるように連動しなければならない。それを実現するにはラジオ局側のインフラ整備が必須であると思う。ウェブページは、放送コンテンツ内容の詳細やウェブページ上から独自の情報発信できる体制を整えることが重要で、それらの情報はさらにリンクされて、リスナーが求める情報へ繋がっていかねばならない。また、これまでラジオの苦手だったリスナーとのインタラクティブなコミュニケーションを促進がある。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やツイッターポッドキャストや各種ブログなど、現在もかなり活用しているが、ラジオの基本を変えるような捉え方ではない。これからは放送局とリスナー、番組とリスナー、パーソナリティとリスナーがいつでもどこでも繋がり、新たなラジオとリスナーの関係性が求められる時代なのである。

 これまでラジオは見えないリスナーを対象としてきたが、これからは見えるリスナーを対象にできるシステムづくりも重要だ。かつて、「見えるラジオ」という言葉があった。いやいまもある。これは主にTOKYO FMが中心となり、FM放送のサブキャリアを活用したテキスト放送でニュースや天気予報を送っている。東京都内ではタクシーに乗ると助手席の上に小さな電光版のような表示板があり、ニュースが流れる、あのシステムだ。「見えるラジオ」は音声だけでなく活字も放送できるという意味から、放送する情報をより近い存在として認識できるため「見える」と表現したのである。これからのラジオは情報が見えるばかりではなく、リスナーが「見える」ようにしなければならない。そのためのネットの位置づけとしてウェブページのメディア化が必要であり、リスナーの見える化(可視化)と可視化されたリスナーとの新しい繋がりを創り上げてこそ放送活動の時代が始まるのである。

 さて、こうした考え方に立って各局のウェブページをみると、各局とも何と貧弱なことか。おそらく上述したようなラジオは主でネットは従、といった考え方が底辺にあろことが透けてみえる。NHKや東京キー局は今後を見据えて取り組んでいる様子が伺えるが、県域ローカル局コミュニティ放送局は、放送局の“表札”にしかみえない。番組は誰が担当しているとかイベント告知、局からのお知らせといった日常の放送活動のサポートでしかない。番組活用のためツイッターやSNSを利用しているが、あくまでもサブの位置である。ネットを生業としている事業者からみれば何ともったいないことかと映るに相違いまい。

 まず、放送局の経営者に発想の転換を図ってもらいたいと思う。21世紀に入ってからはインーネットとケイタイによってコミュニケーションのあり方が変わってしまったのだから・・・。ラジオがネット社会における位置づけをしっかり認識してほしいところである。その上でネットの活用というより本当の意味で“融合”を考えてほしいところだ。融合の推進とは新しいラジオの事業形態を考えることであり、新たな事業創造である。その視点に立ったウェブメディアの構築が求められよう。放送番組の編成や制作と同様の規模でウェブページ、いやウェブメディアの構築が必要で、その制作体制を整えていかねばならないだろう。現在のウェブページ担当者はどこの放送局も広報班として極小人数の運営だ。番組制作とネット制作は同等の位置付けで、予算もかけて展開しなければウェブページのメディア化は不可能である。

 これからのラジオの基本は、放送活動として“電波を右手にネットラジオを左手”に持ち、いつでもどこでも聴取を可能にする環境づくりが構築できなければならないが、ウェブページをメディア化し、ウェブメディアづくりに最大の重点を置くべきであろう。放送メディアとネットメディアをしっかりと融合させ、情報発信とともにリスナーのコミュニティづくりを促進させ、見えるリスナーづくり、行動するリスナーをづくり上げていく。そして実際のリスナーと接触する様々なイベント展開を併せることによって新たなラジオとリスナー、ラジオとスポンサーの関係を創造してこそ、21世紀のラジオの生き残る姿であろう。ラジオが新しい時代に新たな影響力を持たせるにはネットのメディア化と見えるリスナーづくりは欠かせないのである。この項については、改めて詳述したいと思っている。(了)