【第103】デジタルラジオのかたち・私論 (その23)

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トピックス ◆◆ 資生堂が地域ラジオに支援の手 ◆◆
 去る5月 19日化粧品メーカー資生堂は、東日本大震災で地域情報を提供する「コミュニティFM放送局」「臨時災害FM放送局」の支援に乗り出すと発表した。支援の内容は被災者の心安らぐ時間を提供するため「メッセージと歌」で綴る番組と「絵本朗読」番組を提供する。前者は被災地に所縁のある有名歌手の声と歌を番組を、後者は母子で楽しめる短い物語の番組、朗読は中井貴恵が担当する。このほか、運営に役立てる目的から各局に支援金を送る。ゲームソフトで知られるコーエーテクモホールディングス?が被災地の「コミュニティFM放送局」の支援を発表している。スタッフ、資金面で苦しんでいる災害地の地域ラジオにとって大きな支援となる。
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(c)ラジオはミドルメディアとしてリスナーと立体的繋がりを 
 ラジオビジョンを探っているが、その3つ目を考えてみたい。ここで記したいのは〈ラジオ・ソーシャル・キャピタル〉とでもいえるような、新たなラジオのかたちに取り組む発想である。すなわち、ソーシャル・キャピタルという〈信頼〉〈規範〉〈ネットワーク〉が、社会生活のなかでしっかり結びつき、生活環境を構築していく、その基盤が社会資本となる考え方に、ラジオはどのような力を発揮できるのか、という課題である。現在の社会は生活者を取り巻く環境が激変し、人間関係に著しい変化をもたらしている。ラジオと社会の関わりも基本的に変えざるを得ない時期にきている。そこで、これからのラジオを考える社会背景として次のような点を上げておこう。

 社会環境の変化でいうと、高度経済成長の追求の結果、生活者は利益追求(損得勘定)という価値観を抱いてしまったこと、インターネットにより生活者のコミュニケーション形態が著しく変化したこと、人と人との絆が希薄化してしまったこと、といった現象である。こうした環境の変化のなかに、ラジオがどのような役割を果せるか、という課題も潜んでいる。しかし、ラジオが置かれている社会現象に取り組むには、ラジオの経営状況が著しく悪化している。リスナーの減少と民放ラジオの急速な収益減少で、従来のメディアの影響力を失いかけている上、ラジオに変わるメディアが登場し、ラジオがなくても生活に困らない環境が生まれている。一世を風靡したラジオメディアの姿は望みようもない。

 規模が小さくなったラジオは、従来のような影響力を創り出すことはもうできないのだろうか。つい悲観的な発想になりがちだが、どっこい、新たなラジオの可能性が大きいと受け止めている。それはマスメディアの小規模化に伴い、ミドルメディアの興隆という新たな現象が生まれ、そこにマーケットが登場つつあるからだ。ラジオの可能性にはこの点に注目しておく必要があろう。ラジオはこの分野で生き抜くメディア特性を持っているからである。

  • ラジオはマス・パーソナル・コミュニケーションが可能なメディア、即ち、番組パーソナリティとリスナーがパーソナルに受け止め-、信頼感を共有できるメディア特性を持っている。
  • マスメディアではなくなったラジオは、ミドルメディアとして信頼に基づいた影響力を生み出すことが可能な時代になる。言い換えると、リスナーとの深い繋がりが信頼と期待をもたらし、行動を喚起できるメディアに成長できる。
  • ラジオは現代の盲点、希薄になっている人間関係を再構築できる手段を持ち、時代の先取りができる。パーソナリティとリスナー、リスナー同志の強い絆を構築できる環境にある。 

 ラジオ自体が苦境にある事業環境だからこそ、上記のラジオ特性を新たに見直して、具体的な目標を明確にし、ミドルメディアにチャレンジしていく時ではないだろうか。2010年7月に総務省から公表された「ラジオ報告書」には地域社会にコミットメントするラジオの存在が強く主張している。その姿勢を含めて、今回の表題である地域生活者へのコミットメントは、番組を放送するだけではなく地域社会のリスナーと具体的に連携し、ラジオと地域コミュニティ、あるいはラジオ局がつくるコミュニティ・グループなど、地域社会や地域文化に貢献できる実践行動が必要ではないか。その成果が地域社会で認められてこそ、メディアとしての役割と事業環境が生まれてくるのだ。ラジオ(番組)がリスナーへの働きかけによってメディアとリスナーとイベントが立体的連携を構築して、ラジオ・ソーシャル・キャピタルを創り出すことではなかろうか。

 具体的なイメージとしてはどんな形になるであろうか。先ず、前章で触れたパーソナリティのリスナーとの心の繋がりを具体的な形で現す企画を実行することであろう。参考として、ユニークな企画展開を紹介しよう。それは日本スポーツごみ拾い連盟(代表:服部進氏)が各地で実施している「スポーツごみ拾い大会」だ。この大会は(財)スポーツ健康産業団体連合会より「地域・スポーツ振興賞」を受賞しているほどで、この活動は自然環境をサポートする趣旨から、飛散するゴミをスポーツ形式にして拾うことを競争し成果を上げるもの。2008年より実施されて、現在では全国に広がっている。この活動は友人知人を誘って10名ほどチームをつくり参加し、同様の多くのチームと競争するゲームである。

 このイベントには、まず、友人知人という知り合いを誘ってチームをつくるが、ここにはネットのようなバーチャルな交流でなく、実際のチームの交流があり、またチームワークを作らねばならない連帯意識がある。現代に人間関係の希薄さを補うものがある。一方、社会運動の1つであるエコロジーに繋がる。もう1つは地域の生活空間を美化し、地域活性化へ繋がる。面白い企画を考えたものだと感心するが、この発想は大学生という若者から生まれ出たのだから、若者の素行に批判的な世相のあるなかで、あっぱれなヤングスピリッツである。

 こうした活動を、ラジオは積極的に連動していくべきではないか。地域活動の一環として幾つかのコミュニティ放送局が主催や協賛しているが、県域ラジオもどんどん乗り出すべきではないか。生活環境を美化する姿勢から、東京のキー局などが取り組み、ネット局と連携し、全国の連携と地域の連携が一体となった活動や運動へ結び付けることができるはずである。また、大手のスポンサーも協賛可能であろう。メディアが動き、イベント主催者が動き、参加する人が動く。そこには実質的な活動〈ゴミを拾う活動〉と運動〈環境美化へのキャンペーン〉がリンクし、放送とイベントと参加者(リスナー)の立体的繋がりが生まれていく。これこそこれからのラジオの存在を示す事例ではないか。これまでのように“我々はマスメディアであり、放送人である”といった高い目線のもと、片手間にイベントをお手伝いする姿勢は、これからのラジオには通用しないだろう。
 ラジオメディアは、従来から大きな役割を果たしているニュース報道や教育教養の分野を堅持していくのはもちろんだが、メディアと受け手という視点、具体的には従来の番組とリスナー、パーソナリティとリスナーという関係性を変え、ミドルメディアとして狭くとも深い影響力を発揮していくことが求められるのではないだろうか。(了)