【第96話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その17)

 トピック
     ◆◆NHKラジオが2011年度中にネット配信開始の予定◆◆
 

 NHKは去る2月16日の定例記者会見で、ラジオのインターネット同時配信を2011年度中に開始することを公表した。ネット配信はNHK業務範囲を超える可能性があり、法改正の必要が生まれるが、難聴地域対策であれば、法改正なしでも可能性があるという見通しを示し、今後総務省に認可を申請する方針だ。また、NHKのインーネットサービスの2011年度の基本方針を発表。インーネットのラジオ配信について、民放ラジオのネット同時配信ラジコを「難聴の解消にとどまらず、ラジオの新しい聴き方として定着しつつある」と評価し、より多くのルートを通じてNHKの放送に接していただけるように努める」といっている。インーネット業務全般については、ソーシャルメディア、地域情報、スマートフォンなどの形態端末への取り組みとコンテンツ開発など重点目標を掲げている。NHKがインーネットを取り込み、積極的に対応を取る姿勢が表れていて、今後のラジオ界に大きな影響を持つことになろう。この2〜3年でラジオ界が激変するような予兆を感じる。


■ ラジオの性格、メディア特性を吟味する!

 これからのラジオも姿を求めて提示した【道標(1)新たな時代に社会的文化的役割を果たすラジオ放送ビジョン】を考えるために、前回からラジオの基本であるメディア特性(媒体特性)を振り返ってレポートしている。その方法として、昨年総務省から公表された「ラジオと地域メディアの今後に関する研究会報告書」で取り上げられているラジオ特性を、再度吟味している。前回は報告書のなかのラジオの「弱さ」の部分を取り上げた。今回はラジオの「強さ」の部分を取り上げて吟味したみたい。ラジオの「強さ」については次のような項目を上げている。

 (1)音だけの優位性=音声だけだからこそ、ながら聴取が可能であり、普段着のまま本音が語れ、権利処理が容易で、機動力があり、ネットとの親和性が高い。(2)コミュニティとの親和性=ラジオは暮らしのメディアとして、地域報道、暮らし情報、自治体の広報、地域文化、人と人とを繋ぐメディアである。(3)人に優しい=ラジオは高齢者に優しいメディア。人間の気配や温もりを同時間に共有できるストリーミングを特色とメディア。聴くだけで得をするメディア。(4)根強い聴取者=ラジオの聴取人口は減っているが、既存のリスナーは引き続き根強くラジオを聴いている傾向がある。(5)若者層も「音」は聴く=ラジオを聴かない若者はネットラジオポッドキャストを聴いている。「音声メディア」に可能性を秘めている。(6)災害時の実績=災害時には種々の有用情報が往きかう情報ハブとなる。阪神淡路大震災では頼りになる情報源として評価され、新潟中越地震では最初に接したメディアはラジオであった。災害時には被災者を守る使命と責任がある。

 以上の項目がラジオの「強さ」として上げられている。ラジオのメディア価値として明確に表明するには、もっと広く、深い捉え方、そして説得力のある表現が必要ではないかと思う。この捉え方では、これからのラジオの方向性やビジョンを検討していく指針としてはあまりにも軟弱ではなかろうか。
 この報告書におけるラジオ論の存在は「これからのラジオ」「マルチメディア放送」のあり方を考えていく上で基本となる。メディアとして影響力を失いつつあるラジオを新たなツールによって復権を試みていくその基本となる「ラジオ論」であり、そのなかで論じられるラジオの特性である。単なるラジオの「強さ」「弱さ」を羅列して論じ、ラジオ特性とするにはあまりにも説得力に欠くといえないか。マスメディアのなかで、他にはないメディア特性を、ラジオ自体が持つ特性と歴史的に培われてきた特性を併せて捉えるべきであると思う。

 ラジオがNHK・民放合わせて日本の国民に影響力を発揮してきたのは1950年以降でいっていい。NHKラジオの発足は1925年、民放ラジオの発足は1951年中部日本放送が最初である。NHK・民放併せて国民に放送としての役割を果たしたのは1951年以降ということになる。太平洋戦争後日本の復興と成長に無くてはならない情報ツールで、当時の電気や水道と同様に社会インフラとしての存在であったといっていい。したがって、この年から現在までの60年間がラジオの中心となる歴史である。ラジオメディアの特性を語るには、この期間に培われた特性を含めて取り上げねばならないであろう。そこで、ラジオのメディア特性をもう少し俯瞰し、本来のラジオの持つ基本的特質に加えて、60年の歩みから生まれた特徴、社会環境の変化による特色などを加えて整理し、新しい時代に貢献できるラジオを考えてみたいと思う。(了)

 注:上記で引用した総務省の報告書を詳しく知りたい人は、下記にアドレスへ。

       http://www.soumu.go.jp/main_content/000073526.pdf