【第97話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その18)

トピック
     ◆◆ 民放ラジオ番組をNHKラジオが来る4月から放送 ◆◆

 NHKラジオ4月編成では、民放ローカルラジオの人気番組をレギュラー番組として紹介する。放送開始は3月29日よりで、番組名は「亀淵昭信のにっぽん全国ラジオめぐり」。この取り組みは2010年7月に始まった「NHK・民放連“音声メディアの将来に関する意見交換会”」で双方が協力し合い、若者の「ラジオ離れ」に対処していこうという姿勢に基づく。この番組は隔週火曜日午後9時5分から50分間放送されるもので、全国のユニークな面白い番組をNHK・民放の枠を超えて伝えられる。NHKラジオはAM/FM共の全国放送、民放ラジオはキー局ネット番組を除くとローカルエリアに放送するローカル番組が中心である。その双方が連携して、地方発全国放送がNHKでできることは画期的な放送で、ラジオファンの喚起を期待したい。
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■ ラジオの持つ機能と特性の整理

 この項は【道標?新たな時代に社会的文化的役割を果たすラジオ放送ビジョン】を描くためのプロローグとして、その基礎となるラジオのメディア特性を整理している。総務省の「ラジオ報告書」(2010年7月公表)にある「ラジオ論」を点描したが、不足している項目を付加しつつ、整理していくと次のようになる。

(1)聴覚メディアであること
 ラジオはもともと無線電波で、音声を電波に乗せて放送する技術的方法しかなかった時代の登場だった。後に映像が中心のテレビが生まれるが、ラジオはその手軽さが故に、社会の情報インフラとして尊重され、国民的注目されて育ってきた経緯がある。その点現在のように、デジタル・ツールによる社会基盤のなかった時代環境のなかで生まれ、育ってきた。その後登場したテレビと比べて、音声だけの放送番組が持つ特色が明確となり、独自の発展を遂げてきた。その例をあげると音声だけによる「想像性」の大きな特性、代表的な番組として「ラジオドラマ」が上げられるが、ドキュメンタリー番組、朗読番組、パーソナリティの会話の中の想像豊かな話、など聴き手の理解に応じて想像性の広さ深さが得られる。この点、映像番組と異なる大きな機能として特色付けられる。

(2)情報の速報性が高い
ニュースや出来事発生現場から直接伝達できる機能は、ラジオの特性の1つである。同じことがテレビにもいえるが、ニュースはスタジオから、出来事発生の現場からマイク1つでレポートが可能で、機動性が高い報道が可能である。最近は携帯電話によるレポートも盛んになり、音声のみという手軽さが速報性の高い報道が可能である。ネット時代のいま、ツイッターやブログあるいはユーチューブやユーストリームなど一般の人のネットツールで情報の速報性が加えられたが、プロの情報収集と一般ユーザーの情報提供には正確性、客観性においてバリューの違いがあるようだ。信頼感や安心感のある情報を速やかに伝達する役割はラジオの力である。特に災害時の情報伝達には如何なく発揮される。

(3)移動空間、作業空間の聴取が可能
 これは携帯ラジオ、カーラジオなどに代表されるが、移動空間、作業空間でも接触できるという、いうなれば、いつでもどこでも接触できるメディア、それがラジオである。最近はテレビのワンセグが普及し、携帯電話ほかで移動中に視聴か可能となったが、ラジオの持つ手軽さは掛け替えのない機能である。それはニュースや情報ばかりでなく、番組のパーソナリティと会話できる心の空間が生まれるからである。日頃のラジオ生活が災害時に如何なく力を発揮する。新潟中越地震中越沖地震がその実像を示している。これからは電波に加えてネットラジオが利用されるであろう。しかし、放送番組というコンテンツを送り出すのは信頼されるプロ集団のラジオである。

(4)受信機の高い普及率
 ラジオのリスナー離れが進んでいる現在、メーカーも新たな受信機開発に戸惑いを見せているが、ラジオは一家に数台存在するといわれる。ただ聴かれなくなった現象がラジオの存在を不確かなものにしている。普及率は高いので、新たにラジオの存在を認識させるラジオ業界の積極的キャンペーンが必要である。またラジオの放送がインーネットでサイマル放送(同時放送)を展開し始めているので、これからはパソコンやケイタイ電話でも気軽に聴取できる環境が整い、ラジオへの接触環境が飛躍的に高くなっていくと思われる。ネットでラジオが聴けるということは、ネットメディアとラジオメディアの融合となるため、ラジオ局は改めてこの融合を効果的に発揮したメディアづくりが必要となってくる。この課題については後述する。

(5)無料で聴くことが可能
 ラジオは無料が当たり前である。NHKのラジオ聴取料は1968年に廃止されている。民放は広告放送にて共に原則無料となっている。衛星ラジオで有料放送は存在するが少数。これは平常放送でも災害時放送でも、アクセスすれば聴取が可能という利点は、社会的役割としてほかに代えがたい特色である。この無料は放送免許を得た放送電波であるが、ネットによるサイマル放送に関しては、アプリに多少料金が発生するものの、放送自体は無料である。

 この項は、ラジオのメディア特性を整理して紹介しているが、(6)項目は次回に譲りたい。(了)