【第95話】デジタルラジオのかたち・私論 (その16)

トピック
◆◆全国の民放FM52局が「auスマートフォン」で聴取可能に!◆◆
 KDDI沖縄セルラー電話は1月26日よりネット回線を通じ、auスマートフォンなどで全国の民放FM52局が聴けるサービスを開始した。J−WAVEは3月15日から開始予定という。サーブス名は「LISMO WAVE」で、専用アプリをダウンロードして利用する。対応機種はauアンドロイド搭載スマートフォン3機種ほかで月額315円だが、5月末まで無料キャンペーンを実施する。
 このニュースは、いよいよラジオも気軽にケイタイで聴取できるようになってきたなという実感がする。この流れはどんどん広がって行き、AMラジオも近い将来同様の形で聴取できるようになろう。現在、東阪で実施しているネット無料サイト「radiko」とケイタイ有料サイトのラジオとが同居する形で、地上波ラジオがネットで聴取できるようになっていく。これは好ましい方向性で、これからは電波であれネットであれ、ツールはどちらでも結構だが、放送するラジオの番組が大きな課題となってくる。


■ ラジオの基本である「メディア特性」を吟味する!

 前回から“多様性のあるラジオ”実現のために、道標(1)「新たな時代に社会的文化的役割を果たすラジオ放送ビジョン」の項を綴っている。今回からこの課題に対して、ラジオの根本的なメディア特性を考えながら、ラジオ放送ビジョンを探る試みにチャレンジしている。
 道標(1)は、これからのラジオが拠って立つ基本である。1990年までのラジオは、この社会的文化的使命が果たされてきたが故に存在理由があり、事業的にも成立していたのだ。1990年以降は、競争社会の名の下に利益追求と合理化がラジオの中心となってしまった。それが故に、ラジオの社会的文化的役割の減少とリスナーのラジオ離れが進行していったのではないか。もちろんこの理屈には異論のある人もあろうが、このラジオの事業展開はラジオ衰退の本質に触れるものではないだろうか。こうしたラジオの反省に従えば、もう一度ラジオの社会的文化的役割を新たな時代にどう果たしていけばいいのかを真剣に論議し、ビジョンに反映していくことが必要不可欠である。

 ラジオの社会的文化的役割をどのように果たせばよいかを考えるには、もう一度ラジオの技術的聴取環境的特性のほか長い歴史で培った特性を再吟味する必要がある。2010年7月総務省から発表された「ラジオと地域メディアの今後に関する研究会報告書」のラジオ論やV−LOW論に記載されたラジオメディアの特性を参考にしながら、ラジオ特性を再吟味することにしたい。この報告書は大きく(a)ラジオ論(b)ラジオ論からV−Low論(c)V−Lowの3篇から成っている。その(a)ラジオ論にメディア特性がラジオの弱さと強さに分けて論じられている。それを紹介し、基本的な視点から見直してみたい。では「弱さ」の項目を要約すると以下の通りである。

 (1)受信環境=都市部ではビル影、高架下、ビル・マンション屋内での難聴取が増加している。建造物の受信電界強度のレベルが近年顕著に低下している。(2)送信設備=AMの送信アンテナの更新には莫大な費用と期間が必要となる。またアナログテレビ終了に伴い、共用しているラジオアンテナの費用負担が上昇。(3)ラジオを知らない世代出現=この10年間でラジオ若者の聴取人口が激減している。日本のラジオ未聴取経験者が40%、英国は5%、米国は1%という。

 (4)受信機端末の魅力低下=デジタルAV機器全盛時代に、チューニングをしなければならない受信機端末は疎まれる傾向にある。特に若者には。(5)メディア価値の構造的低下=民放ラジオの収益低下は、広告モデルが広く商品を知らしめることより、広告を視聴した人がそれだけ商品を買うかに変化。(6)忙しい現代との相性=ラジオは「早送り」ができないメディア。番組時間分聴かねばならない。その点急速な時代の流れに適合しにくいコンテンツである。(7)災害時の価値低下兆候=ネット時代となり、各自治体のネット活用が進み、生活者への直接発信が可能となったので自治体のラジオ活用が減少傾向にある。

 以上の7項目が当報告書に記載されているラジオの〈弱さ〉でるが、この〈弱さ〉という分類もさることながら、この内容でいいものかと頭を傾げるところがある。(1)から(3)までは都市環境の変化、ラジオ業界の縮小、若者の生活習慣の変化による原因で、ラジオを取り巻く環境変化から生まれているが、(4)以降の項目はラジオ業界内部の努力不足から発生している要素が強い。たとえば(4)の受信機の魅力低下とはどういうことか。
プリセットしておけばボタン1つで選局できる時代である。(5)のメディア価値の低下は本来既存ラジオ自体が招いたものではあないか。(6)忙しい現代人には番組時間を最初から最後まで聴くことに耐えたれないというのか。これはむしろ番組の魅力に関する問題で、自ら招いていることでもある。(7)災害時の価値低下の兆候があるというが、本当だろうか。最近では2度にわたる新潟地震コミュニティ放送の活躍など考えると、この項目には疑問符が付く。

 やはりラジオ業界自ら招いた環境が「ラジオの弱さ」に繋がってことを強く意識する必要があると思う。それをいかにも「ラジオの弱さ」と人事のように記述するところにラジオ業界の弱さがあるように思えてならない。この報告書の記載を詳しく知りたい人は、下記にアドレスしてください。

       http://www.soumu.go.jp/main_content/000073526.pdf

次回は、当報告書のラジオの〈強さ〉の部分を取り上げ、本来の姿を考えたい。(了)