【第94話】デジタルラジオのかたち・私論 (その15)

■ “多様性のあるラジオ”実現のための法整備が近い! 
 去る1月20日民間放送連盟は、総務省に対してマスメディア集中排除原則(マス排)の緩和を求める要望書を提出した。そのなかで注目されるのは、ラジオとテレビを別々の基準とし、ラジオにはこのマス排の撤廃を含む規制緩和を求める、という要望書の内容だ。具体的には、昨年2月に総務省に提出した「ラジオのマス排に関する要望書」を踏襲した内容で具体的に(a)音声放送メディア複数チャンネル運用を可能とする、(b)地上ラジオとコミュニティ放送の兼営を可能とする、などである。前回の当レポートで“多様性のあるラジオ”実現の必要性を記したが、近い将来法整備が進むと、本格的に実現できるようになるだろう。期待したい。

 なぜラジオがマス排の撤廃の要望が“多様性のあるラジオ”の実現に近づくのかというと、要望書の背景は今後想定される音声メディアの多様化、他局化への対応と民放ラジオの経営環境の悪化がある。日本の民放ラジオは、企業広告料が財源となっているため、リスナーに対して、できるだけ多くの興味関心を引きつける番組が放送される。そのため他局の高い聴取率の番組を見習い、同じような番組を創り放送することが多い。その繰り返しが多様性の乏しい番組群の登場となる。この環境の打破には、1事業者による複数チャンネルの放送が可能になれば、多様な番組が可能となり、現状を幾分解消されていくことだろう。しかし、本質的な解決になるかというと疑問は残る。民放ラジオ事業者のこれまでの放送姿勢に対する根本的な改革が求められているからである。


■ “多様性のあるラジオ”実現への道標
 さて、これまで“多様性のあるラジオ”という表現をときどき使用しているが、その言葉に触れておこう。現代はデジタル社会であるが、デジタル社会とは、デジタル技術によって情報社会基盤が整えられ、さまざまなデジタル・ツールにより情報やコンテンツが行き交う社会である。その社会でのなかでは、デジタル・ツールによる情報を、ユーザーは受け止め活用するだけでなく、人間の素養や判断力、選択力を高める必要がある。その役割がデジタルを手段としたマスメディアである。ラジオというメディアもその1つである。
その意味で社会より求められる情報=コンテンツを多角的に伝えるべく努力する義務がある。しかも良質な内容、すなわち、受け手が感動共感を覚えたり、深く考えたり判断に役立つ内容を提供する役目があるといっていい。ネット社会にとってはこれまで以上に求められるものかも知れない。その役割を積極的に果たしてこそネット時代のラジオの存在意義が認められるのではなかろうか。多様な情報=コンテンツを受け手であるユーザー=リスナーが選択して享受していく。個人の志向性をより尊重し、しかも社会的に貢献できるラジオ、その姿を“多様性のあるラジオ”と表現している。

 さて、これからのラジオは“多様性のあるラジオ”をどんな形で具現化していくかが大きなテーマとなるが、言葉自体はキーワードとして捉えていいように思うが、具体的に“多様性のあるラジオ”を実現していくためには、ロジックの明確なビジョンや構想が必要であろう。基本的課題を4つの分野からあげてみることにする。


   【道標A】 新たな時代に社会的文化的役割を果たすラジオ放送ビジョン
   【道標B】 生活者の趣向ニーズに沿った他局化と多様な番組編成の実現
   【道標C】 ラジオと表裏一体であるソーシャルネットメディアの構築
   【道標D】 ネット時代に相応しい多面的ラジオ事業形態の開発


 この4つの分野で課題が解決するかどうかは分からないが、大枠では1つの方向性を示すことができるのではないかと思う。それでは順を追って説明してみたい。


【道標A】 新たな時代に社会的文化的役割を果たすラジオ放送ビジョン
 この道標は、これからのラジオが拠って立つ基本である。1990年までのラジオは、社会的文化的使命を果たしてきたが故にその存在理由があり、事業的にも成立してきたといえる。1990年以降は、競争社会の名の下に利益追求と合理化がラジオの中心となってしまい、本来の役割の減少がリスナーのラジオ離れを招いてしまったといっていいのではないか。もちろんこの理屈には異論のある人もあろうが、このラジオの選んできた道はラジオ衰退の本質に触れるものではないだろうか。この時期のラジオの反省に従えば、もう一度ラジオの社会的文化的役割を新たな時代にどのように果たしていけばいいのかを真剣に論議し、ビジョンに反映していくことが必要不可欠であると思う。

 この本質を見直すために、次回からラジオの持つメディア特性をもう一度振り返ってみたい。ラジオメディアの特性については、さまざまな捉え方があるが、昨年7月総務省から発表された「ラジオと地域メディアの今後に関する研究会報告書」のラジオ論の項を参考にしながら、更に手を加えて明確にしてみたい。(了)