【第86話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その7)

 
 これまで、デジタル化されるメディア環境を、社会情報基盤の視点やマスメディアの情報伝達の変化、受け手の情報収集の変化などから触れてきたが、これからはしばらくマスメディアを取巻く環境変化について、最近の放送や書籍、雑誌のレポートを点描し、ラジオの置かれている環境をみておきたい。


■ マスメディア〈新聞・テレビ〉の現状をウォッチ

(a)〈新聞・テレビ〉の減収傾向は進む
 われわれ一般読者にとって「新聞」が置かれている環境がどのように変化しているのか、非常につかみ難い。特に若い年齢層と年齢の高い層とでは、その変化の把握は180度違うといって言い過ぎではない。先日友人を訪ねた時のこと、私は毎朝新聞を読まないと一日が始まらないが、家の子はほとんど新聞を読まないよと。日本でも新聞に限らず活字メディアには大きな転機が訪れている。

 メディア環境の変化について、一般的には新聞の場合は販売部数の変化や経営実績の変化、テレビの場合は視聴率の変化、広告費の増減で把握することが多い。この点では確かに新聞もテレビも、この4〜5年は大きく減少してきている。それに引き換え、インーネット広告の成長ぶりは目を見張るものがあり、5年前にはラジオの広告費を抜き、4年前に雑誌を抜き、昨年は新聞を追い越してしまった。

 日本の総広告費には限界があり、その範囲から各メディアに分散される。広告メディアはゼロサムゲームなので、4大メディアの減少分はインーネット広告へと廻ることになる。実際その変化をみると「新聞協会/調査データ」では、新聞の総売上(広告費も含む)は2000年の2兆5000億円を境に下降の一途を辿り、2009年には2兆円まで20%減少している。この5年間でも17%も減少である。

テレビの総売上はそれほど大きな落ち込みはないが、「日本の広告費08年」(電通)によると、2005年の2兆400万円から2008年1兆9000万円となり、この3年では7%マイナスである。ついでに雑誌とラジオについて触れると、雑誌が4842億円から4078億円で16%マイナス、ラジオが1778億円から1549億円で13%マイナスである。ひとりインーネットが85%のプラスとなっている。では、海の向こうはどうなっているのであろうか。

(b)アメリカ新聞界の現状レポート&書籍

マスメディアとネットの世界において、アメリカで起きていることは遅かれ早かれ日本へ押し寄せる、といわれている。そのアメリカの新聞界の動向を、NHKTVの番組「プレミアム8」〜未来への提言:ワシントン・ポスト副社長レナード・ダウニー〜(放送7月1日)で放送された。大変興味深く視聴した。テーマはネット時代の新聞ジャーナリズムのあり方であるが、アメリカの激変を肌で感じ、その対応にチャレンジしているレナード・ダウニー氏のインタビューはアメリカのメディア界の現状とこれからの方向性を考えさせる貴重なレポートとなっていた。

特に地方紙の廃刊とネットへの移行や新聞記者の解雇などの状況を伝えながら、これからの新聞・テレビの経営を含めたネット時代のジャーナリズムのあり方を提起しており、考えさせられるとことが多かった。これからのアナログラジオデジタルラジオを考える上で貴重な発想であり、示唆に富んでいる。同じNHKで番組「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」などを担当した鈴木伸元氏の著書「新聞消滅大国アメリカ」(幻冬舎新書/2010年)は自らの取材によるレポートで、アメリカの新聞事情を詳細に記述している。「ニューヨーク・タイムズ」「サンフランシスコ・クロニクル」の現状と窮状のレポートはアメリカ新聞界の現状を伝えている。また本書は、新聞に取って代わるメディアの動きをさまざまな角度からレポートしていて教えられるとことが多い。

新聞・テレビの現状にスポットを当てている「次に来るメディアは何か」(河内孝著/ちくま新書2010年)も、アメリカと日本の新聞事情を知る上で、これほど分かり易く詳細に記したものは少ない。本書は激変期にある日本のマスメディアの現状を把握し、今後のメディア・コングロマリットを予想したものだが、世界的にみたマスメディアの経営動向と日本のメディアの将来を俯瞰図として見せてくれる。興味を引いたのは、「新聞は公共財」とした視点から「新聞再生法」がアメリカ上院議院に上程され、公聴会での議論の様子を紹介していて、アメリカにおける新聞とジャーナリズムの深刻さを伺いことができる。(つづく)