【第85話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その6)

■ ラジオメディアの地位の低下 
 ラジオはマスメディアだろうか。この問いに対して、一般的にはどのように受け止められているであろうか。ラジオがリビングの中央に鎮座していた時代、ステレオの登場によるFMラジオが全盛の時代、トランジスタラジオによる移動空間やクルマの中で聴いていた時代など、ラジオは日本の高度成長とともに大きな影響力を発揮してきた。その時代は確かにマスメディアであった。しかし1990年代に入り、生活の多様化とともに情報の求め方の変化が進む中で、ラジオ自体がその多様化についていけなくなっていった。

その結果、日本の民放ラジオの売上高は1992年をピークにして下降線をたどり、2000年に入ってからというものは前年度10%近い落ち込みとなっており、その下降は止まらない。リスナー離れによるレーティング(聴取率調査)の落ち込みとスポンサーの広告出稿の下落を招いている。

 こうした浮沈するディアはこれまで他にも存在した。映画業界がそうであったし、近いところでは音楽業界がそうであった。映画の場合はテレビという映像メディアに追い越され、音楽CDの場合はダウンロードが可能なインーネットに影響を受けた。映画はその後生きる道を見出していく。CDの場合もインーネットとスクラムを組み始め、サバイバルにチャレンジしている。ラジオはどうか。これが非常に難しく、現状ではこの苦境を乗り切る方策はまだ見い出せていない。

■ ミドルメディアとしてのラジオの活路
 前回メディアの存在として(a)マスメディア(b)ミドルメディア(c)パーソナルメディアの3つを上げて、ラジオはミドルメディアの存在になりつつあるのではないか、ということを指摘した。数万から数十万のリスナーに影響力を発揮して、実際に行動を起こさせるメディアとしての存在、レーティングに頼らずリスナー=ユーザーの実際行動に反映されるようなメディア価値を持ちたいものである。数万から数十万のリスナーといっても番組毎にこれだけにリスナー数を確保していくならば、大きな影響力を生み出すメディアになる可能性が大きいといえるだろう。それにはインーネットとの連動なくしてはあり得ない。その連動がどのようになされるか、現時点ではまだ見えない状態である。

ネットとの連動では、たとえば子育ての主婦を対象として番組であれば、番組とネットの交流サイトの提携とイベントによる対象主婦の行動化、アラフォー世代の男性が対象ならば、スポーツ番組とケイタイでのスポーツ情報提供そして有名スポーツ選手とのネット交流などを促進させ、その交流をイベント化していくなど、いずれもリスナーをミドルに動かし続ける戦略の実施はラジオメディアの存在価値をリアルで証明し、メディア価値を生み出す方法ではなかろうか。ラジオとネットはもう不可分な関係にあるのだ。

 これからミドルメディアの存在について、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は著書「2011年新聞・テレビ消滅」に分かり易く説明しているので、紹介しておこう。
   (a)マスメディアは「みんな」に情報届けるのに対して、ミドルメディアはもっと小
      いさな集団に情報を届けるメディア
   (b)マスメディアは数が少ない。ミドルメディアは数百、数千、数万、それ以上存在
      するかもしれないほど数が多い。
   (c)マスメディアは1千億円単位の年間予算で経営しているのに対して、ミドルメデ
      ィアはほとんど無償か、せいぜい年間数千万程度の予算である。
   (d)マスメディアはプロの作ったコンテンツを流しているのに対して、ミドルメディ
      アはかなりの部分は素人の制作である。
 ここでいうミドルメディアとはインーネット上のメディアを指しているが、ラジオにも大いに参考となる。ある料理交流サイトに一般の主婦が手間をかけないホットケーキの作り方を応募し、トップを取ったという。そこには腕自慢の主婦が大勢アクセスし実際に試して評価する。ユーザー同士の製作と評価が、多く婦人を引き付ける。そんな交流が毎日行われている。数千人単位の応募参加とアクセスだ。視聴覚に訴えるこうした情報交換は、ラジオの機能を遥かに凌駕している。こうした例には暇がない。

 そこでラジオは、このインーネットサイトのように、ミドルメディアとしてどのようにネットを取り込み、放送の持つ利点と結び付けて、リスナー=ユーザーをどう囲い込んでいくのか、言い換えると、どのように影響力を発揮していくのか、ここにラジオの将来がかかっているといえる。デジタルラジオにおいてもその方向性は変わらないはずだ。

 俯瞰的にみた場合、ラジオが単体で存在するには、ラジオの持つ機能が社会のニーズに応えられなくなっており、これからはインーネットと融合して、存在価値を見出していくことしか道はないのである。もう少し踏み込むならば、プロが創るラジオ番組とリスナー=ユーザーが交流するネットサイトを1つの放送形態と位置付けることだろう。ラジオはアナログでもデジタルでも、クルマの両輪のように放送とネットが補完し合うような働きをしてこそこれからのラジオであり、その可能性を開拓できるメディアなのである。この課題についてはまた詳しく後述する。(つづく)