【第84回】 デジタルラジオのかたち・私論 (その5)

■ ラジオは今でもマスメディアか!

4回にわたってラジオを取り巻くデジタル環境、ネット環境などからラジオメディアの現状を見つめてきたが、もう1つ大切なのはラジオがこれまでと同様にマスメディアであるか、という問いである。これは今後デジタルラジオを考える上で非常に大切な視点であるように思えるので触れておきたい。

マスコミ4媒体と昔からよくいわれている。4大マスメディアともいわれる。これまでラジオはもちろんその一角を占めていた。民放ラジオ・テレビが登場して以降は半世紀以上にわたって君臨していたといっていい。しかし、情報革命といわれる社会情報基盤がデジタル化されるに従って、大きな変化を迎えるのである。

1990年代は大都市における民間FM局が開局する一方、衛星ラジオ、コミュニティFM放送など多くのラジオが放送開始してラジオの多様化時代を迎える。AM/FMラジオはマスメディアとして最後の力を発揮する。全国ネットワークと通して様々な番組が放送され、多くの番組にナショナル・クライアントが提供していた。

2000年になると、ネットワークの力も徐々に薄れていく。インーネットの利用者が多くなり、広告がラジオからネットの流れる潮流ができ、Web2.0といわれるネット上の機能が格段に向上した結果、この潮流は奔流となっていく。ここに4大メディアといわれる新聞・雑誌(出版)・テレビ・ラジオの一角が崩れ始める。出版不況やラジオの赤字経営がそれである。現在新聞とテレビにも大きな影響が出始めている。

そして2010年に入ると、ラジオでは、大都会にある民放FM局の放送中止が余儀なくされるようになる。またそれに近い放送局が複数局存在するという。地方のラジオ局は大方が赤字財政で苦境に陥っている。これは売上の広告出稿が減少しているばかりではない。リスナーのラジオ離れが進んでいることも大きな原因である。特に若い人たちの間ではラジオを聴かないことが習慣になってしまっている。

8月の首都圏におけるラジオ調査ではセットインユースといわれるリスナーのラジオ接触率が7%を割ってしまった。以前は8〜9%を維持していた。こうしてラジオ業界は、今後どのように再生を図っていくか、その見通しがついていないままにデジタルラジオの検討をしている現状である。これまで影響力を誇ってきたラジオがマスメディアとしての存在を大きく失いつつあり、その存在自体にも陰りを見せ始めている。

■ ミドルメディア化しているラジオ

さて、マスメディアとは一体何をもっていうのだろうか。これは非常に難しい問いであるが、大方は一般大衆を対象に情報提供することによって、世論形成や社会活動に影響録を及ぼすメディアと受け止められているからではないだろうか。しかしどの位の数という数値については非常にあいまいである。対象は数十万人、数百万人、数千万人なのか。どのぐらいの数の大衆をいうのだろうか。

実際の認識は、テレビ・ラジオの視聴率、新聞・雑誌の発行部数などを参考にいう場合が多いのであるが、もう1つは新聞・雑誌など百年以上の歴史、テレビ・ラジオの50年以上の歩みなど社会的に大きな影響力を持っていた時代を経て今日に至っているので、読者や視聴者からの社会的信頼が根拠となっていることも大きいといえる。

しかしインーネット時代のラジオは、上述したようにリスナー調査の面からも企業の広告出稿の減少からみてもマスメディアとしてその存在を維持しているかどうか疑問である。私感であるが、次の3つに分けるとするならば、(b)の領域にラジオはあるのではないかと受け止めている。

その3つとは、(a)マスメディア(b)ミドルメディア(c)パーソナルメディアである。マスメディアは数百万から数千万単位に、ミドルメディアは数万から数十万単位、パ―ソナルメディアは数十から数千単位に、という分け方である。パーソナルメディアといっても、最近はネットのブログやツイッタ―で数万〜数十万のアクセスを数えるものは少なくなく、その影響力が注目されている。単にパーソナルメディアともいっていられない状況が生まれているのだ。新聞やテレビに取り上げられないと納得しない人がいるが、それは主流ではなくなっている。世間は、個人がメディアを持つ時代に突入しており、マスメディアに大きな影響を及ぼす時代となっている。

ラジオが上述の分け方でいうと(b)というのは、リスナー調査による数値が働き盛りのリスナ―、たとえば35歳から49歳の男性〔M2層〕を3%取ったとするならば、首都圏3500万人の内男性は半分として約1750万人、その約25%のM2層は438万人、さらにその3%は13万人である。東阪名九の主要都市圏ならともかく、その他の県域はその10分の1の数字になる。100万人近いリスナーを獲得するには並大抵のことではない。ラジオがマスメディアとして影響力を発揮するには主要都市ネットワークか全国ネットワークを結ばなければ難しいことがわかる。

ではこのミドルメディア(クラスメディアといってもいい)は、影響力のないメディアなのか。とんでもない。このミドルメディアこそがインーネット時代のメディアとして大きな力を発揮する時代となるのである。(つづく)