【82】 デジタルラジオのかたち:私論 (その3)

■ メディアのデジタル化は情報の伝わり方を変える!

 社会情報基盤がデジタル化になった現在そしてこれからは、メディアがどのように変化していくのであろうか。もちろんこの変化が分かれば苦労はないが、どのメディアも五里霧中で手探り状態である。少しでもラジオの行方を探るために、2つの視点にスポットを当てて探ってみたい。その1つはメディアとしての伝達システム、もう1つがコミュニケーションとしての伝達システムの分野である。

 メディアとしての伝達システムとはどういうものか。それは放送でいえば、番組が視聴者に聴かれるまでの流れ、新聞でいえば記事が読者に読まれるまでの過程である。この流れをITジャーナリストの佐々木俊尚氏が著書「2011年新聞テレビ消滅」に分かり易く3つのことばで書いている。「コンテンツ」「コンテナ」「コンベヤ」である。テレビと新聞を例にすると、テレビは(1)コンテンツ=番組、(2)コンテナ=テレビ、(3)コンベヤ=地上波放送・衛星放送・CATV、新聞は(1)コンテンツ=新聞記事、(2)新聞紙面、(3)コンベヤ=販売店、雑誌は(1)コンテンツ=雑誌記事、(2)コンテナ=雑誌編集面、(3)コンベヤ=書店・コンビニ・駅販売店ということになる。これをラジオにあてはめれば、(1)コンテンツ=ラジオ番組、(2)ラジオ(受信機を含む)、(3)コンベヤ=地上波ラジオ、衛星ラジオ(有線放送を含む)となり、これが垂直統合のシステムである。


■ 従来の情報伝達からネット伝達へ

 大切なのはデジタル化すると、この3つの分野(3層/レイヤー)に大きな変化が生じること、いや現在生じていることである。たとえば、新聞でいえば(1)コンテンツという記事は新聞社が創り出すが、(2)コンテナはネットのヤフーニュースや検索エンジン、ブログやツイッターが窓口になるような現象(若者は特に新聞を読まず、ネットで読む)。詳しく読む場合はリンクを辿って新聞社のサイトへ行く。したがって(3)コンベヤはインターネットということになる。テレビはまだそれほど多くないが、コンテンツ以外は少しずつネット分野に流れつつある。コンテナ部分をユーチューブやニコニコ動画、ケイタイ、ゲーム機、パソコンなど。コンベヤは電波・CATV・インーネットなどである。来年テレビが地上波・衛星波いずれもデジタルへ完全移行する大きなエポックを迎え、有線・無線の通信がブロードバンド化することにより、クリアな映像情報が放送通信の両面から受け手に電波とインーネットを介して提供されることが多くなる。放送と通信の本格的な融合時代を迎えるのである。

 ラジオはどのように推移するのか。これも他のマスメディアと同様にコンテンツ層は放送局が作るとして、コンテナとコンベアの2層はほとんどがインーネットへシフトしていくに違いない。現在アナログラジオでさえ、県域ラジオは関東圏関西圏で実用化試験放送ではあるがIPサイマルラジオ「ラジコ」を、コミュニティFMはサイマルラジオとしてそれぞれネット放送を始めている。ラジオ離れの進む中で、「ラジオ復権か」と新聞雑誌に取り上げられているが、本当に復権なのだろうか、その本質はこの2層がこれからインーネットに握られているという方向性、もう少し触れると、コンテナ部分は「ラジコ」IPサイマルラジオ協議会や「CSRA」コミュニティ・サイマルラジオ・アライアンスがプラットホームを提供し、それを活用してネットラジオを放送している。コンベヤ部分はインーネットで、いずれも他者に握られるのである。


■ ラジオの伝達の流れは変わるか?

 今回のテーマは社会情報基盤がデジタル化され、コンテンツというソフトが受け手に届くには、有線と無線いずれもデジタル信号に置き換えられ、コンベヤで伝達されるといことだ。
アナログラジオはその意味で、これまでの放送という電波とともに、同じ次元でインーネットという公衆回線を使って放送しなければ、このデジタル基盤に乗ることができないのである。別の言い方をすれば、現在発信から受信まで垂直統合(前回の81話で触れた「アナログでは電話も放送もそれどれが独立したシステム」と同じ)である以上、このままでは生き残ることはできない。ラジオはデジタル化の道を選ばねばならないのである。ここにデジタルラジオの生きる道が生まれてくるのだが、単なるツールがデジタルに変わるだけではない。デジタル放送だけでは上述したデジタル時代の伝達の流れからいって、ラジオの再生に繋がるとは限らない。デジタルラジオもインーネットで同時放送する伝達システムを導入し、送り出す番組というコンテンツが広い分野に利用されなければ生き残れないのである。
 ここに利用範囲の広さによって、ラジオが社会的文化的役割を果たす一方、民間放送として利益を生み出すものでなければならないが、その基本となるコンテンツが受け手に届くまでの伝達手段、デジタルラジオ放送では番組というコンテンツをつくり出す委託放送事業者と電波と施設を管理する受託放送事業者が分離することになる一方、インーネットでもコンテナに相当するプラットホームが他社に握られることになる。インーネットでは利益を生み出すのはプラットホームであるため、チャンスが大幅に減少する。ここにデジタルラジオの大きな課題が生まれてくるのではないか。もちろんデジタルによる新たな魅力あるコンテンツの開発が大前提になるのだが・・・。(つづく)