第61話 CFM局が地元密着度を示す指標があったら!

□ CFMは地域と密着したラジオであることは当然ですが、各局がどの程度地元に密着しているか、となると指標や尺度がないので難しいところです。自治体の広報、防災、福祉情報や地域スポーツ、商店街の情報を伝えていればよいのでしょうか。また住民であるリスナーから寄せられた情報やお便りを紹介して行くことが地域密着ラジオなのでしょうか。CFM局と地域密着について「FM OZE」(エフエム沼田放送)の「年詞交歓会」に参加し、地元密着ということを考えさせられましたのでそのレーポートをしたいと思います。
 
■ 地域密着型ラジオを象徴したFM OZEの「年詞交歓会」

 さる1月22日(木)午後4時、群馬県沼田市の「ホテル ベラヴィータ」で地元のCFM局の「09’ FM OZE 賀詞交歓会〜新春を祝う集い」が開催され、沼田市と近郊町村の首長はじめ市議会、町議会、商工会、地元事業者、大手企業の支社支店長、教育関係者、ボランティア団体など、地域に係わる人々のほとんどが集まる会合でした。その上招待者として県知事はじめ群馬県野球連盟、新聞放送各社、放送ではNHK前橋放送局、群馬テレビ、FM群馬などほかCFM各局を含めて数10名が参加、総勢300人を超える人々が集まる盛大な催しでした。この会は、FM OZE 中林寿緒代表取締役社長の「新たな時代に新たな信頼を創り上る「FM OZE」のスタートである」という初心のご挨拶で始まり、〔第7回 FM OZE ハートウォーミング大賞〕の授賞式や沼田市長はじめ地域を代表される方々がスピーチ、「年詞交歓会」として地元関係者が一堂に会する大きな催しでした。

 催しに参加して驚いたことは、CFM局がこれほどまでに地元に食い込み、しかも頼りにされている存在を肌で感じたことでした。通常、年詞交歓会は地元の商工会議所かそれに匹敵する組織が行うことが多く、CFM局が主体になって実施することは非常に珍しいケースです。また、こうした会の開催は、地元の自治体はじめ商工会議所や教育関係、福祉関係、自治会、各種法人など地域の組織が認めていないと実施できないものです。その意味で、FM OZEは放送開始11年、その間いかに地域と密着し信頼を築く放送活動を行ってきたかを物語っています。その放送活動の一端が現割れている「FM OZE ハートウォーミング大賞」、これは当日授賞式が行われましたが、この企画実施に見ることができます。この「ハートウォーミング大賞」はこんな内容です。


■ 「FM OZE ハートウォーミング大賞」こそ地域活性化の象徴

 まず「FM OZE」(沼田エフエム放送(株))について触れましょう。この当局は平成9年11月1日群馬県の2局目として開局しました。経営の中核は地元有力企業の有志によるものですが、株主には沼田市、沼田商工会議所ほか、群馬銀行、上毛新聞、群馬テレビエフエム群馬など地元および県内の有力企業が名を連ねています。(資本金は9800万円。)経営者及びスタッフは、総勢20名、役員10名、社員・契約社員10名、(役員常勤は1名)という体制です。また、ボランティア・スタッフが役100名、解説者が80名いるといいます。サービスエリアが沼田市みなかみ町川場村、昭和村片品村ほかで、聴取可能人口は10数万人。年間売上が9000万円以上です。こうしたプロフィールをみるといかに地元と密着した放送局づくりを最初から手がけてきたかが良く分ります。特に注目したいのは、年間売上の中で放送事業売上よりイベント・メディア事業の方が2割も多いことです。ここに地元密着の秘訣があると思われます。こうした背景を知った上でFM OZE主催の「ハートウォーミング大賞」を眺めるとその意味がはっきり分ります。

「FM OZE ハートウォーミング大賞」は、利根沼田地域において、文化、芸能、スポーツ、ボランティア等の分野を通して、地域発展に貢献している団体及び個人の功績をたたえるもので、FM OZEが創設した賞です。特に、日頃脚光を浴びることなく、地道に地域貢献をされている方々にスポットを当てているそうです。この賞はFM OZEと地元協力企業が設立している「ハートウォーミング基金」から表彰状、記念品が贈られます。今回は第7回目で見事大賞に輝いたのは〔生活学校〜無限の会〕でした。受賞理由は「この20年間、地域産の主材料とした会員手作りの温かい昼食を、市内の一人暮らし高齢者に配布してきた活動とともに、これらの人々と昼食会を開催し、世代間交流の促進を促してきたこと、また生涯学習、福祉活動の推進してきた実績、更に環境フェスティバル、マイバック運動などに積極的に参加して、CO2削減に長年取り組んできた功績」が評価されたものでした。このほか、部門賞では「沼田市立沼田中学校ブラスバンド部」〜市民帯運動会開会式、入場行進演奏協力、ベルジ尾瀬、榛名養護学校など施設への慰問演奏など積極的に行い、ボランティア精神を学び地域の貢献している活動に対しの授与。このほか教育部門は「千明政夫氏(詩人・俳人)〜児童に対して文章教室で指導し児童の文章力向上を図ったばかりでなく、詩歌による豊かな人間性の育成に寄与」といったように部門では5つの団体と個人が受賞。FM OZE社長賞では「金子さくら氏〜小学校6年生で全国フンシング大会でチャンピオンとなり、全国のトップレベルに成長、後輩の指導や海外遠征による外国人との人間関係構築に対して」「相良賢一氏〜沼田東小学校で読み聞かせボランティアとして長年にわたり児童の読書活動の推進に貢献している活動に対して」それぞれ授与されました。ほかに奨励賞もあり3団体が受賞しています。

 この「FM OZE ハートウォーミング大賞」は平成14年にスタートし、今回で7回目です。過去の大賞受賞者を眺めると、「朗読奉仕活動」「ガールスカウト活動」「地域活動:昭和村消防団」「いで湯宅配ボランティア活動」などさまざまな分野にわたっています。沼田市と周辺の町村在住の地域貢献活動の内容もさることながら、コミュニティFM放送局である「FM OZE」が主催し、実践していることです。全国のCFM局で第三セクターの経営環境を持っているところは全体の半数かそれ以上です。しかし、ここまで第三セクターの環境をビジネスと文化活動に生かしているCFM局は数少ない放送局ではないでしょうか。経営者の経営手腕が発揮されているCFM局です。


■ CFM局事業の典型的なあり方を示している「FM OZE」

 「FM OZE」がCFM局の典型的事例と申し上げた理由をここで触れておきましょう。当ブログ「はてなCFM」ではコミュニティFM放送専門ブログとして1年半ほどさまざまな視点からレポートをしてきました。そのなかでCFM局事業の現状と将来性を考え、放送事業としてどのようにあったらよいかを提案してきました。ここでその提案をもう一度振り返ってみたいと思います。

 端的に申せば、CFMとは地域密着型ラジオであり、地元の生活者に信頼される情報の提供およびコミュニケーション活動を行うことによって、地域活性化と災害放送に貢献することです。もちろん民間放送ですから経営面での地元の広告費、イベント費など営業展開を図っていかねばなりません。角度を変えると、CFMは立体的メディアづくりをすることが、従来のラジオの持つ制約を打破して、新しいメディアとして評価される存在である、ということです。では立体的メディアづくりとはどういうメディアなのでしょうか。時代はIT技術の進化によりインターネットやケイタイ、あるいはデジタル機器により、デジタル手段によるコミュニケーション回路が進展し、拡張しています。いうなれば、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌というマスメディアがこのデジタル化により大きく変わろうとしています。当然地域メディアも変化せざるを得ないのです。どのようにチェンッジするのか。現在大きな影響力のあるテレビと新聞は視聴率の低下と購読料の減少に苦しんでいます。広域ラジオ、大手出版業は軒並み売上低下による赤字経営、事業の縮小へ変わりつつあります。その反面インターネットへの広告費の飛躍的増加、ケイタイビジネスの向上など、通信メディアによるビジネス化が進行中です。こうした状況のなかでマスメディアはネットメディアとの融合を図ろうとしています。この状況のなかでCFMは事業としてどのように対応して行けばいいのでしょう。それは上述した地域での立体的メディアづくりに繋がります。

 マスメディアとは受け手に伝達する経路として、送り手、媒体、受けて、効果影響という流れがあります。送り手とは情報内容を提供する役割、媒体とは伝達するもの(ラジオ放送波、テレビ放送波、新聞紙、雑誌などという装置)、そして受け手がそれらを読み聴き見る人たち、効果影響とは受け手の反応です。これをラジオというメディアに当てはめてみると、パーソナリティをはじめ情報を提供するが、電波で不特定多数に対して放送し、サービスエリアの受信者(リスナー)が反応を起こす、という形です。さて、ここで重要なことは、放送波を使って不特定多数のリスナーに番組内容を届けるということです。現在インターネットやケイタイが普及したことにより、発信者と受信者が特定でき、双方向通信が可能となりました。これまでの電話は1対1、これに対してネットやケイタイは1対NかN対Nのコミュニケーションが可能となりました。ここにこれまでのラジオと違う回路があるのです。相手が特定できるということはマーケティング上効率のよい広告ができるわけです。また、コミュニケーションの点からいえば、発信する内容を関心ある人たちにだけ伝えることのできる、というわけです。このネット環境を考えると、少なくてもラジオというメディアはリスナーが見えるようにしなければなりません。見えるリスナーを獲得し、そのリスナーに向ってコミュニケーションを展開する方法を探らねばならないのです。具体的にいうと、ラジオはインターネットやケイタイを取り込み、見えるリスナーを確保すること、その上で、そのリスナーをイベントに集め、「見えるリスナー」から「触れるリスナー」へ変えていくことです。見えるようにするには、リスナーをネットやケイタイによる登録制度を採用し、囲い込みます。10万人口都市ならラジオ評価基準3%の5000人を確保。(ラジオは広告メディアとして3%メディアといいます。全広告費に占める割合が3%だからです。)もちろんそれ以上の登録者を得ることに越したことはありません。「見えるリスナー」の確保によって、普段からコミュニケーションをとる方法が生まれます。これにより聴取率調査に頼らないリスナー動向を掴むことができ、これまでの評価尺度が変わります。このコミュニケーション回路はイベントと連動することによって、「バーチャル社会」から「リアル社会」へと移していくことが可能です。地域という限定された社会にこそ最も有効に働きます。ここにコミュニティFM放送の存在価値が生まれます。「立体的メディアづくり」となるのです。

 
 さて、「FM OZE」は、地域メディアとして地域のあらゆる分野の組織団体、そして住民と連携を取っている一方、イベントによる地域住民の集客の多さは大変なもので、放送売上よりイベント・メディア事業の売上が優っているという実態がそれを示しています。こうしたFM OZEの経営陣はラジオ・メディアの特性をよく知っているな、と思います。ラジオというメディアの本質は生活情報提供とともに生活者(リスナー)の感動と共感を共有するツールではないか、と思っています。別の言い方をすると、これは非常に現実的見方ですが、ラジオは触媒である、ともいえます。組織や団体、サークルと個人を、放送活動を通して結び付けて行く、そしてその効果がより大きく育む、という役割です。この視点からみると、FM OZEの「賀詞交歓会」しかり「ハートウォーミング大賞」しかりで、実にメディアの特性を生かしています。

FM OZEは、こうした放送活動からして、上記に記したCFMの立体的メディアづくりの最も近い存在ではないでしょうか。願わくは今後インターネットとケイタイに力を注ぎ、見えるリスナー確保に努力していただき、CFMという放送電波とネット&ケイタイという通信回路、そしてイベント事業の3つを組み合わせた立体的メディアを構築いしてもらいたいものです。それが今後のコミュニティFM放送のあるべき姿へと繋がる最も近い道だからです。(了)