【第89話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その10)

ここ3話は、4大マスメディアの大きな変化の実情をさまざまな角度からスポットを当てた近著を紹介している。著書のほとんどはインーネットに詳しく、かつてマスメディアに携わった経験を持つ方が多いが、この項終わりに、マスメディアをマーケティングの立場から観察し、独自の視点からレポートしている書籍を紹介しよう。


■ マスメディアの変化をマーケティング分野から分析
 マスメディアに携わっている人は、世間の注目やメディアの価値観により、外部からメディアを考えたり、指摘を受けたりする機会が少ない。結果的にガラパゴス化というか、世間とメディア人の意識にズレが生じてしまう。その結果現在のような情報伝達の変容に関して遅れをとってしまうことが往々にしてある。「グーグルに勝つ広告モデル」(岡本一郎著/光文社新書2008年)はメディアマーケティングの分野からマスメディアの変化を論理的に指摘していて面白く、メディア関係者には大いに参考となる。

 マーケティング視点から、4大マスメディアとインーネットメディアの比較を、分かりやすい図表にして説明している。縦軸と横軸を引き、それぞれマスメディアの特徴を4面に位置づけて4マスメディアとインーネットメディアの違いを明らかにしている。そしてインーネットメディアの特性をBMWのネット広告を例に説明し、インーネットメディアが4マスメディアでは得られない、より「セグメントされたターゲット層に対して、情緒的・感覚的なブランドコミュニケーションを行うことができる可能なメディアが、はじめて登場した」(括弧は本分より引用)とまとめている。そのほか、コンテンツ市場における旧作と新作の新たなバトルが展開されるこれからの市場を、クラシック音楽の例を基に開設していてユニークだ。


マーケティング分析によるラジオメディア
 本書はこの分析を基に、インーネットと各メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)を個別に詳しく扱っている。マスメディアの外から指摘されると納得のいくことが多い。特に、ラジオという分野がどの書籍にも扱われていていないことに残念に思っていたが、本書には1章を割いてAMラジオとFMラジオを分けて分析していて、ラジオ関係者には一読をお勧めたい。ポイントを記しておくとこうだ。

 ラジオメディアはリスナーが減少、特に若者世代には特徴的だ。この傾向は20年以上も前から見えない社会現象として進行していたので、表面化した現在ではメディアの構造的問題として位置づけられる。その解決には至難の業さ。そこで、FMラジオは音楽が主体であるところから、インーネットとの代替性が高く、電波とネットの両面からアプローチできるメディアだ。また生活のなかで進んでいる多様化にも応える必要があり、ラジオの多様化、すなわちクラシック放送、ジャズ放送などリスナーの嗜好に応えるラジオチャンネルが生まれるとターゲティングメディアとして功を奏していくのではないか。

一方、AMラジオはトークラジオとしての性格が強いことから、FMラジオに比べてインーネットの代替性が低い。その上若者層の非聴取という構造的問題はより深刻である。こうした環境からシニア向けに特化したメディアへ進む方ことが事業展開に可能性を見い出すことができるのではないか、といった非常に具体的な提案を試みている。いずれにしても、4大メディアの大きな転換期にあるなかで、これほどラジオメディアについて分析と提案を試みているのは少ないので注目される。

 さて、これまで取り上げた書籍は、新書版から2008年〜2010年の間に出版された注目書に絞った。新書版は比較的新しい現状を分析し解説する書籍が多く、参考になるからだ。この項の最後に、雑誌に掲載された注目される記事を少々紹介しておこう。

 雑誌ではメディア関係誌がさまざまな取り上げているが、なかでも「放送文化」(2010年夏季号)は「ネット時代のテレビジョン」と題して“NHKオンデマンド”の現状、日本テレビの“ネット戦略”、フジテレビの“On Demand”などテレビ局のネット対策がレポートされている。(秋号)は「デバイスはテレビを変えるか」という特集を組み、ジャーナリスト、NHK、ネット企業の関係者が現状を語っている。ラジオメディアに関しては、放送文化の特集のなかでも触れられてもいるが、IPサイマルラジオ協議会によるネットラジオの現状報告が公表されたこともあり、「ラジオの復権」というタイトルで各誌が特集を組んでいる。週刊「エコノミスト」8月2日号の特集、放送批評懇談会発行「GARAC」10月号の特集などがある。


一般誌でユニークなのは「望星」(東海大学出版会/2010年11月号)の特集「ラジオで逢いましょう」だ。当雑誌のサブタイトルに「考える人の実感マガジン」となっていて、いつも読み応えのある内容が掲載されている。今回のラジオ特集は、ラジオの魅力や評判の番組、ラジオCMなどについて、フリーライター山家誠一、放送作家・パーソナリティのさらだたまこほか、アナウンサー鎌田正幸、坪郷佳英子、プロデューサー残間里江子などが語っている。大人のための大人のラジオが、これから時代に大切になることを教えてくれる。これまで紹介したメディア論的視点とは異なった、ラジオ番組の持つ本質を再確認させてくれる特集である。


 いずれにしても時代は確実にデジタルメディア化へ進んでおり、マスメディアとネットメディアの関係に目が離せなくなっている。当ブログ特集はデジタル時代のなかで「ラジオメディア」は生き残れるのか、生き残るとしたならばどんな社会的役割を果たて行けばよいのかを探るため、さまざまな角度からスポットを当てているが、4回にわたって近著からマスメディアの現状を把握するための書籍を紹介してきた。ブックレビュはひとまずピリオドとしたい。(了)