【第98話】 デジタルラジオのかたち・私論  (その19)

トピック
    ◆◆ NHKラジオ・民放ラジオが5月から共同キャンペーン展開 ◆◆

「はじめまして、ラジオです。」というタイトルで高校生を中心に、NHKと在京民放5局がラジオ共同キャンペーンを5月より展開する。第1回は5月15日若者が集まる渋谷でイベントを実施。このキャンペーンはラジオの存在すら知らない若者がいることに危惧した両社が高校生を中心にした10代をターゲットに、ラジオの魅力をアピールする。高校生が企画した番組の放送、各局のパーソナリティが高校生とラジオを巡るトークバトルや音楽ライブを交えた盛り沢山の企画が予定されている。これからのラジオは見えるリスナーを獲得し、共に行動するメディアでなければその存在が失われる。その意味で今回の企画は多いな意味があるだろう。
  〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

〈この項は前回からの続き〉
■ ラジオのメディア特性を吟味し整理すると・・・
 ラジオのメディア特性について、ブログ第95話から4回にわたってレポートしているが、今回は前回から新に整理しまとめ直した項目の続きである。前回の(1)〜(5)を参考に読んでいただきたい。

(6)ラジオはマス・パーソナル・メディア  
 これは、ラジオの持つ聴取特性といっていい。番組は多数の聴取者に向かって放送されるが、聴き手の方は自分だけに放送されているように受け止める。マスとパーソナルが一体化している珍しいメディアで、番組のパーソナリティは、「皆さん」と声をかけるのではなく「あなた」と呼びかける。ここに送り手と受けての間にラジオ特有のコミュニケーション回路が成立する。その結果、放送への親和性や信頼感が生まれ、ラジオでしかできない相互のコミュニケーションが成立する。このコミュニケーションを更に発展させるための新たなパーソナリティ像の模索が必要な時代である。成熟化社会の日本にあって年齢別、性別、ライフスタイル別など、リスナーの生活スタイルの多様化に応えて、パーソナリティの心に届く感性スタイルがこれから求められる。

(7)ラジオは聴取者の参加性が強い 
 ラジオは親和性や信頼感の高いところから、ラジオ番組への直接参加や交流がしやいメディアである。これは放送メディアの持つ社会的文化的機能を果たすための大きな環境を提供してくれる。実際は番組への参加を始め放送局の主催するイベントに参加したり、ネットによる交流が盛んである。地域が尊重されるこれからの時代には、このラジオ機能がより大きな役割を果たしていくことになろう。これまでは〈見えないリスナー〉を対象にしていたラジオが、これからは〈見えるリスナー〉を対象とした番組づくり、イベントづくり、そしてネットによる交流など、実際に見えるリスナーを対象とする時代になってくる。〈見えるリスナー〉づくりは戦略的に構築しなければならないが、そのことによって聴取率に頼らないメディア評価が得られる。実際に見えるリスナー、動かせるリスナーを持つことは、ラジオメディアの影響力を見える形で提示できることに繋がり、新たなラジオ評価へと発展するに違いない。

(8)ラジオ聴取は習慣性が高い 
 ラジオ聴取はテレビのようなザッピング視聴はしない。聴取者が好むラジオ局の好きなパーソナリティ出演の番組をセットしておいて聴くことが多い。そうした聴取態度からラジオは習慣性が高いメディアといえる。したがって、放送局では番組編成を大きく変更することは少ない。馴染みのお客さんを大切にするレストランや専門店と似通っている。この特色は、パーソナリティとリスナーとの繋がりを生み、人と人との絆を創り出していく。この役割はこれからの社会にとって掛替えのないコミュニケーション回路となろう。

(9)地域情報の伝達に最適 
 現在のラジオは、放送の目的によりさまざまな種類が存在するが、なかでもこれかで大きな影響力を果たしてきたAM/FMラジオは、免許基準が県域単位、地域単位であることから、地方、地域における密着情報の提供に最適である。伝達メディアとしては地方テレビやケーブルテレビ、あるいは地方新聞、地元情報誌などがあるが、機動力を発揮し、速報性を生かした伝達はラジオに勝るものはない。県域単位の情報は県域ラジオが担い、地域単位の情報はコミュニティ放送が担うことによって、地域情報の伝達はより高まる。これからは県域・地域ラジオが連携することによって、更に有効な地域情報を伝達できるのではなかろうか。

(10)低コストの運営費用 
 ラジオの運営は、テレビと比べて比較にならないほど低コストで運営できる。放送用のスタジオや送信所の設備投資を始め、番組制作費用においても低コストが可能である。これは、テレビ、ケーブルテレビと比べて比較にならないほど経済的であり、それだけに身近な放送として活動できるメディアである。大切なのはこうしたラジオの存在を地域社会に浸透させていくことだ。地域の自治体や商工会、教育・社会福祉関係団体はもう少し認識してもらいたい。またラジオメディアの努力も必要である。

(11)災害には不可欠なラジオ 
 情報の伝達手段は多様になり、災害時に役立つメディアが増加している。しかし、世間でいわれているほど携帯電話やインターネットが災害時に有効化というと、現実に起こった災害が如実に示している。2010年の奄美大島の豪雨災害、2005年と2008年の2つの新潟中越地震そして今回の東北関東大震災などでは、通信系伝達手段が軒並み利用不可能だったことを思うと、いかにラジオの情報伝達が大きな役割を果たしているかが理解できる。災害とラジオは切り離せない存在である。

(12)ネットサイマルラジオは新たな時代を創る 
 この項はもう数年様子を見る必要があるが、民放のAM/FM県域ラジオは関東圏と関西圏で聴取できるようになった。また民放FMは一部のauケイタイで全国聴取が可能となっている。これからドンドン増えていくに違いない。電波とネットのサイマル放送そしてホームページ連動がしっかり連動する時代となる。そしてラジオのメディア特性を飛躍的に向上させることになるだろう。リスナーとっては、ネットによるサイマル放送であれアナログラジオであれ、これから登場するマルチメディア放送であれ、放送番組を送ってくるツールが違いだけであって、どのツールがリスナーとって有効かによってこれからの聴取の決め手になるが、おそらくネットと連動したラジオは新たな時代を開拓することになろう。


 以上ラジオのメディア特性を列記したが、このほかにもラジオ60年の歴史のなかで培われてきた特性はいろいろある。家庭の中心にラジオ受信機が鎮座した時代から形態ラジオ、カーラジオによる聴取形態に変化し、そして最近はパソコンや携帯端末で聴く時代へと変遷するなかで、社会の変化と共にラジオの果たす役割も異なり、聴取形態も変わってきている。総務省のラジオ報告書(前述)に記載されている「ラジオの弱さ」は、こうしたラジオの変遷のなかで現れた負の遺産である。問題は負の遺産を避けて通るのではなく、積極的に取り組み、プラスメリットに変換していかねばならない。
 放送や通信の多様化は、これからのラジオへ大きな変化を求めてくるであろう。しかし、ラジオが長い歴史と社会的役割が培ったラジオ持つ機能や特性は一朝一夕になくなるものではない。大切なのはラジオに携わる人々が、これまで培った特性を活かして新たな時代に果たす役割を見出し、それを構築するすべく上述したメディア特性を再吟味して、次の時代へのビジョンを描くことではなかろうか。(了)