【第99話】 デジタルラジオのかたち・私論 (その20)

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     ◆◆ 東北関東大震災の情報提供にコミュニティ放送が大活躍 ◆◆

 未曽有の大災害である今回の東北関東大地震では、被災者にもっとも求められているのが情報だ。総務省は「臨時災害FM放送局」を速やかに地方自治体へ免許し、現在15の放送局が情報提供に活躍している。この災害放送局の免許の主体は自治体だが、実際の放送運用は地元のコミュニティ放送局である。自局の放送は放送休止とし、全スタッフが臨時災害放送に臨んでいる。15局の内放送中のコミュニティ放送局9局、県域AMラジオ「岩手放送」が1局、コミュニティ放送開設準備局や災害のための開設局5局などである。コミュニティ放送協会(JCBA)の事務局および加盟局が総出で協力している。災害地域の情報を被災者に直接伝える役割は極めて大きいといえる。
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■ 新しい時代のラジオビジョン、4つのアプローチ!
 ラジオの復権を考える道標として4つの指標を掲げているが、その1つ【道標(1)新たな時代に社会的文化的役割を果たすラジオ放送ビジョン】の大切さを説明するために、もう一度ラジオのメディア特性を整理し把握する必要があり、前回まで長々と触れてきた。これからのラジオ論の展開にさまざまな形で登場してくると思うので、参考に願いたい。さて、一歩進めて、ラジオの社会的文化的役割に触れていこう。

 そもそもリスナーの「ラジオ離れ」と「収益減収」による民放ラジオ衰退の根本原因はメディアの多様化やインーネットの普及など、さまざまな要因が上げられるが、その1つに、ラジオ事業の市場原理主義に偏った運営も見逃せない。その結果ラジオの信用信頼を生み出す社会的文化的番組の減少したことに加えて、リスナー参加や交流が疎かになっていたことが上げられる。そこで、ラジオが社会的文化的視点の番組を取り戻し、リスナーとの繋がりを強固にしていくことがこれからのラジオに不可欠な要素である。そのアプローチとして、道標(1)を更に次の4つの方法に分けて考えてみたい。

(a)地域ジャーナリズムの尊重する放送体制づくり
(b)ラジオパーソナリティの新たな人材発掘とその育成
(c)地域社会と生活者にコミットした企画とキャンペーン展開
(d)ネットと連携したリスナーの立体的繋がりの構築

ラジオが社会から信頼されるメディアとなるには、どのように取り組んだらよいかを考えると、上記4つの課題が指摘できる。1つ1つ説明していこう。


(a)地域ジャーナリズムを尊重する放送体制づくり

 民放連研究所の「英米ラジオ調査報告会」(月刊誌「民放」2011年2月号)によると、英米のラジオは一般生活者の聴取習慣が日本より格段に高いことにもよるが、多様化したラジオのなかで、元気なラジオはニュースや報道に力点を置き、リスナーからの信頼を得ている放送局が多いことをレポートしている。英米のリスナーには、ラジオから得るニュースや報道を生活に活かす聴取形態や生活環境を創り上げているのかもしれない。日本とは大きく異なる点であろう。日本の場合は、狭い国のなかでラジオ局が同じような番組を放送しているため、ニュースや報道の情報源に大きな違いはなく、また、取り上げる内容も似通っている。そのためラジオの特色ある情報、そのラジオ局らしい情報というのは少ない。ここに1つのラジオの魅力を削いでいる元になっているのではなかろうか。

 もう1つ、アメリカにおける地域ジャーナリズムの大切さの実例を紹介しよう。これはアメリカの地方都市シンシナティ市で2007年主要新聞「シンシナティ・ポスト」が廃刊した影響の事例。プリンストン大学が地域新聞と民主主義への影響を調査した。その結果、地元のさまざまな選挙で、投票へ行く人の減少および立候補者も少なくなった。この現象を調査は、地元紙の廃刊と深く結びついていると結論付けているという(「ネット帝国主義と日本の敗北」岸博幸著/幻冬舎刊〈2010年〉)。これは地元新聞の廃刊であるが、アメリカと違って、日本では地方のラジオの影響力の大きさを考えると、アメリカの地方新聞の話とは片付けられない要素を含んでいる。

 昨年6月公表された総務省のラジオ報告書では「地域情報メディア」としてのラジオの存在を強調しているが、これからのラジオは、「地域情報」を特色とした報道体制をどのように構築するかが大きな課題である。ラジオエリアを、時には全国カバーは必要であるが、大方は地域力を発揮することに目的があるので、地域のリスナーに地域の情報を提供することは本来自明の理である。実際には、大都市ラジオは大手新聞社や通信社提供による全国ニュースが主であり、地方のラジオ局はブロック新聞社提供のニュースが多い。自局取材のニュースは非常に少ない。これからは、地域情報を尊重したラジオを構築するためには、自局の情報収集による情報やニュースをしっかり伝えることである。そのためには報道体制をラジオ局内に設置する必要がある。

 これまでのラジオ局経営者は、報道体制の構築を避けることが多かった。経費の増大に繋がるからである。しかし、これからは地域情報の伝達を特色としていく以上、情報の収集と伝達のための体制は不可欠な要素、県域ラジオ局は県行政や県経済動向や県民活動など、市町村はコミュニティFM自治体情報や商工会、学校情報、生活情報など情報収集を行い、また、県域ラジオとコミュニティFMの連携を強めて、相互の情報交換などを実施して、オリジナル情報の伝達を可能にしていく方法を考えていくことが、リスナーにとって歓迎される情報ソースではなかろうか。

 もう1つは、ラジオスタッフのジャーナリズム精神の育成がある。ラジオ番組が番組制作会社やフリーのディレクター、パーソナリティで頼っている現在、ジャーナリズムを身に付ける機会が少ない。このほか、地域で社会的文化的に貢献している組織、人間をさまざまな角度から取り上げることも重要で、単なるパーソナリティのおしゃべりに留まることなく、内容面に広く深い番組を提供する努力が求められる。いわゆる、ネットでは伝え切れない人間的魅力や信頼ある情報、地域の絆づくりに集中することが、今後のラジオの信頼と親しみを取り戻し、本来のラジオとリスナーの関係づくり、聴取機会を増加させていく方法ではないだろうか。(了)